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検証

検証


 現実的思考の持ち主である竜軌は、とにかく検証してみることにした。

 ミスター・レインとお茶を飲みながら語らい、信玄像を鑑賞する会を美羽が終えるのを苛々苛々しながら待ったのち、美羽を洋服に着替えさせ、自分も洋服に着替え、この家の中では現実的という言葉と最も仲良しであろう父の書斎に向かった。こんな気持ちで孝彰に期待を抱く日が来るとは思ってもいなかった。孝彰はちょうど帰宅して、コーヒーを飲みながら一息吐いていたところだった。

 そこに前触れ無く樫の扉がバンと開き、息子が愛する少女を連行して来た。

 何事かと思う。

「どうした、竜軌。美羽さんは病み上がりだろう。乱暴な扱いはやめなさい」

「りゅうき~」

 竜軌に首根っこを掴まれた美羽がしょぼんとした顔で孝彰に口を開く。

 ここにミスター・レインがいれば「どうしてだか彼はとても怒っているんです、と仰せです」と通訳しただろう。

「今、こいつが何と言ったか解るか、親父」

 孝彰が奇妙な顔で竜軌と、それから彼に首根っこを掴まれた美羽を見る。

「竜軌と。お前の名を呼んだが」

「…そうだな。おい、美羽。もっとしゃべれ」

「うりゅ。ききっき」

 ここにミスター・レインがいれば「私たちは二人の愛で私たち自身を救う筈なのに…、と仰せです」と通訳しただろう。孝彰が聴けば一考の余地ある言葉と捉えたかもしれない。

「今、こいつが何と言ったか解るか、親父」

「……今のは言語なのか?…強いて言うなら、猿の鳴き真似のような」

 がし、と突然、竜軌が肩を掴んで来たので、孝彰は驚いた。親子の触れ合いを求めるような可愛い性格の息子ではないことは、竜軌が小学生になるころには判明していたのだ。

「あんたは俺の父親だ。それが事実だ」

 これはさすがに聞き捨てならない発言だと孝彰は表情を厳しくした。

「…………今まで何か疑惑を持っていたのか、お前は」

「いや、さ、行くぞ、美羽。次だ!」

「りゅーきき、うううう、きい」

 再び首根っこを掴まれて、その状態で美羽が孝彰に頭を下げる。

 ここにミスター・レインがいれば、「お父さん、お疲れのところごめんなさい、と仰せです」と通訳しただろう。



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