実直と検索
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〝あなたの顔、問題だと思うわ〟
朝食を胡蝶の間に運んだ佐野雪人、こと前生名・森蘭丸成利は美羽の書いた文字を読んで、はあ、と何とも言えない相槌を打った。蘇芳色のテーブルに食事の載った盆を置く。
「問題と申されますと?」
〝無駄に美形で悪目立ちし過ぎ〟
蘭は困ったように眉をひそめる。顔に難癖をつけられた真面目な青年は、対応に頭を悩ませた。無駄に美形、と言われるのは初めてだ。しかしそう言えば竜軌にも、お前の顔は何とかならんのか、とこぼされたことはあった。
何ともならない、と謝るしかない。
「あいすみません。なにぶん、親よりの遺伝ですので」
〝せめて私に付き添ってくれる時は、眼鏡くらいかけて〟
「視力は左右共に2・0なのですが」
〝伊達眼鏡よ。苦肉の策だけど〟
蘭は畏まりましたと答えながら、御方様はやはり難しいと思った。
弟二人と共に邸内に部屋を貰っている蘭は、パソコン画面に見入っていた。
「成利兄上。目を悪くしたのですか?」
「坊丸。違う。御方様が目立つことを厭われてな。眼鏡をかけるよう申し付けられた」
くく、と残る少年が笑う。
「兄上は、お顔が派手でおられるゆえ。したが中身は仕事人間。女泣かせよな」
「――――――力丸。お前はその弟だと忘れるな」
「いっそ髭でも生やしたらと言いたいが、兄上に似合わんことは目にみえているな」
「御方様も顔をしかめられよう」
弟たちが笑い合う。
自分同様、本能寺で討ち死にした二人の軽口を聞き流しながら、蘭はマウスをクリックして妥当と思われる商品を検索し続けた。




