健全なる精神
健全なる精神
美羽の顔色は徐々にだが、健康なものに戻って行った。
昼過ぎに美羽が目を開け、確かな視線を据えて竜軌の頬に伸ばした右手を、竜軌はずっと握っていた彼女の左手諸共に掴んで額に押し戴くようにした。
「…………死にかけたぞ、美羽。お前は、俺をびびらせ過ぎだ……」
息と言葉を吐き出す。肩から力みが取れる。
それらの反応に、美羽の眉がすまなさそうに寄った。
「りゅうき」
「ああ、そんな顔をするな。お前のせいじゃない。俺のせいだ、自業自得だ。悪かった…………」
「りゅうき、」
美羽が手振りで筆記を望む。竜軌はメモ帳とペンを美羽の手に持たせた。またそうする時が来て良かったという思いを噛み締めた。寝たままで美羽が書きにくそうにペンを動かす。いつもよりだいぶ時間がかかったが、竜軌は平気で待つことが出来た。
失うことに比べたら何でもない。
〝竜軌のせいじゃないの。どうしてお兄さんが怖かったかを、思い出したからなの〟
その文字を読んだ竜軌の顔から柔らかさが消える。
「―――――――――思い出した?」
声は竜軌自身が意図したよりも低くなった。
美羽が小さく頷き、恥じるように目を伏せた。
それで竜軌は美羽の言葉が事実と認めた。
「考えるな、お前が自分を恥じることはない。美羽、俺との未来だけを見ろ。お前を幸せにしてやるからお前は俺を幸せにしてくれ。それだけ、考えてくれ。……辛いなら、抱かないようにする。反省もしているし」
〝離れたくないって言っても呆れない?〟
「離れたいと言えば呆れる」
〝たくさん触って欲しいとか、気にしないでまた愛して欲しい、って言っても〟
「………」
〝呆れない?竜軌。あなたがもっとたくさん欲しいし、私を欲しいって思ってもらいたい。聞き分け良くなんてならないで〟
「………」
「りゅうき」
「何か食べられるか、美羽」
「りゅうき」
「よく食べてよく寝ろ」
「りゅうき、」
「俺も食って一寝入りする。ここに寝転がるが気にするな」
竜軌が眉間を揉み解しながら言う。腕を久し振りに伸ばすと関節が音を立てるようだ。
「健康と体力は必須だ、美羽。お前がそれを望んでくれるのなら」
疲れた顔でも竜軌が嬉しそうに笑いかけたので、美羽も安心して笑い返せた。




