濁流に雪降らば
濁流に雪降らば
飲み終えた美羽の震えは、再び激しくなった。
〝そなたは私の愛しい蝶だ〟
白くて大きな手。
「美羽?」
〝そなたは私の〟
すらりとして。
「美羽、」
〝帰蝶。もう、私に近付くでない〟
大好きだったのに。
「美羽!」
「――――――りゅうき、」
ひどい震え声が出た。涙と共に。
(解ったわ。あなたが、思い出すなと言った理由が)
竜軌の不安に満ちた顔が美羽を見ている。
(どうしてお兄さんが怖くて、どうして自分のことを気持ち悪いと感じたのか)
竜軌は本当に最初から、美羽を守ろうとしていたのだ。
(守る為に知らせまいとしたことをちゃんとは知らなくて。ごめんね。何を知らせたくなかったのか知らなくてごめんなさい。あなたを、独りで戦わせて)
お腹の底から熱いものがせり上がり、美羽は紫の液体を吐き出した。
「美羽っ、美羽!!」
また竜軌を汚してしまうと美羽は悲しくなった。汚れるから離れてと、手を振りたくても出来ない。
頭が熱いのにとても寒くてもう冬が来たのかと思う。
冬が来れば雪が降る。
雪が降れば汚れた自分を、白く綺麗に覆い隠してくれるだろうか。
(…穢されていたのね)




