あなたに逢えた
あなたに逢えた
胡蝶の間に戻った竜軌は、愛しい蝶の様子を窺った。
美羽は長い睫を閉ざして眠っている。
一晩中、竜軌にとことんまで振り回されたのだから当然だ。くたくたに疲れている。
けれど竜軌はまだ足りない。まだまだ欲しくて仕方がない。満たされたと思っても美羽を見ると頭が冴え、欲望が簡単に息を吹き返して溢れる。暴れて熱くなる。
満たされても満たされてもその先に行きたくなる。
掛布団をめくると、横たわる蝶の白い裸身には無数の赤い痣が散っている。
至るところ、花びらが降り注ぐように竜が降り注いだからだ。
長くうねる黒髪の房を肩や胸元に垂らし、花びらを総身に纏った美羽は美しかった。
愛さないほうがどうかしている。
自分も布団に入り、竜軌は小声で呼びかける。
「…美羽」
美羽は起きずに緩い寝返りを打った。
抱き締めると、美羽の目はぼんやり開いた。
朦朧として潤んだ目で、竜軌を見る。
「りゅうき…」
(美羽が呼ぶのは、俺の名前だけだ)
その、途方も無い優越感。満足感。
「お前が愛するのは俺だけだ」
そう言うと、美羽はまだ霞がかかったような瞳でそれでも微笑み、顎を引く。
堪らずに竜軌は浴衣を脱ぎ捨てる。
美羽の肌に熱を持った唇と舌を這わせた。
「りゅ、うき?」
白い喉が動く。それも舌でなぞる。
「許せ、美羽」
幾らでも幾らでも恵んで欲しい。美羽になら、ひざまずいて希っても良い。
足の裏だろうと喜んで舐めてやる。噛み潰してやる。
「全然足りないんだ。くれ」
そしてまた、竜は蝶を引き摺りこむ。
長い長い年月に蓄積された渇きを潤そうと、無我夢中で蝶を愛した。
美羽の指も腕も肩も脚も胸も、頭のてっぺんから足の爪先まで全部、時間をかけて食べ続けた。




