蝶と花
蝶と花
東京に戻った竜軌は、門倉真白に会った。
見つからなかった、と告げると、真白はそうですか、と言った。
ごく自然に、優しい香りのハーブティーが出される。
「見つかると思うか」
そう尋ねる。
「見つかるでしょう」
他の人間には訊かない問いに、彼女は必ずそう答える。
真白が言うならば見つかるのだろう、と竜軌はそのたびに自分を得心させる。
真白は今、成瀬荒太と婚約期間を過ごしている。
荒太も真白も、嵐下七忍と言う忍び集団を率いて、政治、軍略、商いなど幅広い分野で信長を助けた。今現在も、帰蝶を捜す為、嵐下七忍の手を借りている。
帰蝶が蝶であるならば、真白は花だと竜軌は思う。
白雪のような花。
このまま帰蝶が見つからなければ、この花で手を打っても構わない、などと考える。
邪魔な有象無象は蹴散らせば良い。
しかし真白が抗い、本気で白刃を竜軌に向けるとなれば。
(勝てぬであろうな)
矜持の高い竜軌でさえ、容易く答えは出る。
白い花は怖い。
いとも儚げでいて強い女なのだ。
「お、新庄。戻ってたのか」
真白の住むマンションの階下に住まう門倉剣護がやって来る。
竜軌の心に微かな苛立ちが湧く。
緑の目を持つ真白の従兄弟を、竜軌は密かに嫌っていた。
世に言わせれば好漢、と言われる部類であろう。
(しかし好かぬ)
その理由はただ一つ。
門倉剣護が前生における妹・真白を愛しているからだ。