祈り
祈り
荒太に八つ当たりと嫌がらせをした竜軌は、だいぶ気が晴れた。
帰宅して長々と風呂に入り、胡蝶の間で夕食と、織田信長のフィギュアを笑顔で抱えた美羽を見て、更に気が晴れた。
「りゅうき!」
そう言って信長のフィギュアを掲げ持つ美羽の行動は、ある意味でとても正しい。
竜軌も気分が良くなる。
「お気に入りだな、美羽」
美羽がうんうんと頷く。
「そうだろう。織田信長の治世はな、」
〝うんちくはどうでもええ〟
「……お前の学習意欲の乏しさは問題だ。言葉遣いの悪さも」
〝てやんでえ!かっこよけりゃそれでええんじゃ〟
「それは言葉遣いのことか、信長のことか」
〝両方〟
まあ良いだろう、と竜軌は思う。合格点だ。
「ほら、晩飯を喰うぞ。秋鮭が冷える。熱燗も。蘭もいつまでも膳を引けぬでは気の毒」
「りゅうき!」
〝いただきます!〟
「はい、いただきます」
美羽はお布団の中にまで、信長のフィギュアを連れ込もうとする。
「こらこら、幾ら信長が格好いいからと言って、それはやり過ぎだ、美羽」
(俺がいるから良いだろう)
正真正銘の信長の転生者、元・お前の夫だぞと言いたくなる。
美羽は竜軌の顔を見て、フィギュアを枕元に置いた。
それから正座して、手を合わせて浴衣姿で拝んでいる。
長い眠りから目覚めた美羽はそれ以来、夜は浴衣を着て眠るようになった。
「…それは仏像じゃないが。何かお願いしたのか」
〝ランスロットの怪我が、早く治りますように〟
「――――――ああ」
〝プチ・フラワーも仲間にしたんだもの。お手柄だわ〟
美羽は病室で力丸からこっそりそのことを聴き、大いに褒め称えた。
(……探検団か。莫迦の仲間がまた増えたのか)
その調子でどんどん増殖するかと思うとぞっとする。
「…お祈りが終わったら早くおいで」
優しく呼びかけると、美羽はもそもそとお布団と、お布団の中にいる竜軌の腕の中に収まる。ぬくぬくとして快適そうだ。人間カイロを抱いた竜軌も温かい。竜軌が顎の下や耳の後ろを撫でると、美羽はくすぐったそうにする。左右の瞼にそれぞれ唇をつけ、尖った鼻先にもキスすると、電気スタンドの明かりだけでも赤面しているのが判る。
「りゅうき…」
甘えるように呼ばれると、もっと色々したくなる。
唇を吸っても吸ってもまだ足りない。首の柔肌を噛み、嫌と言うほど舐めてもまだ足りない。美羽はどんどん赤くなる。
まだ相手は少女だとは知るものの。
(熱いんだ。美羽)
浴衣をはだけさせ帯を解いた。




