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芸術の秋

芸術の秋


 主君と違い、出来る限り暑さ寒さに耐えようと考える蘭の部屋に、暖房は入っていない。坊丸は兄の心がけを尊敬こそすれ、不満を言ったりはしない。

「…御方様はやはり、義龍を兄と慕う記憶を残しておいでか」

 蘭の美貌に翳りが落ちる。

「上様のお話によれば、その為、力丸の件にも慙愧の念を抱かれておられるよし」

 蘭は独立した部屋を新庄邸内に持つが、坊丸と力丸は相部屋だ。相部屋とは言っても広い。広いが、力丸のごちゃごちゃした雑多な持ち物が坊丸の領域を侵しつつある。

 坊丸は、兄の部屋を訪ねていた。整理整頓された蘭の部屋は新庄邸には珍しく洋室で、黒いスチールの上にガラス板、更にノートパソコンが置いてある。兄弟はフローリングの床に胡坐をかいて話していた。二人の横に置かれた丸盆には空の湯呑みが二つある。

「御方様に落ち度など」

「解っておりまする、兄上。したが、割り切れぬ情があるのでございましょう」

「…お辛いな。上様も、心中ではお悩みであろう」

「義龍の処分をですか」

「御方様の御気持ちの、落とし所が定かでないゆえ」

「義龍を捕らえれば、まだ余裕を持って思慮出来るというものですが」

 蘭が苦く笑ってかぶりを振る。

「あれは妖物も同じだ。捕らえるは至難。さすがの上様も、今の義龍相手に御方様を囮にはなさるまい」

「りゅうきー、」

 ノックの音と美羽の声がドアの向こうから聴こえて、兄弟はぎくりとする。

「――――――美羽様。いかがなされましたか?」

〝坊丸、やっぱりここにいた〟

 ドアを開けた蘭と、その隣にいる坊丸に、美羽が手に持つ物をどん、と見せる。

「…これは、うえさ、…織田信長のフィギュアではありませんか!」

 坊丸が声を上げる。

 美羽がにこにこと笑う。

〝竜軌が、どうしてだかそれだけは買ってくれたの。こうして見ると信長も悪くないわ〟

「もちろん、やはり戦国武将と言えば、織田信長ですとも!」

〝それでね、ミスター・レインにお願いがあるの〟

「は、何でしょうか」

 ミスター・レインは嫌な予感がした。

〝他の戦国武将を木彫りで作って、かっちょよく彩色してちょうだい〟

 難題を平然と命令して、マダム・バタフライはにこにこと笑っていた。



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