ぼんちゃん
ぼんちゃん
華やかな美貌の少年の左顔面には派手な傷痕が走り、それは左目の上をも覆っていた。ランスロットの、輝く両のまなこの片方が消えてしまった。
もう見ることは出来ない。
美羽は泣きそうになるのを誤魔化す為、横の椅子に座った竜軌の手からおさるさんのぬいぐるみを受け取り、力丸によいしょ、と渡した。
「美羽からの見舞いだ」
両手が使えない美羽に代わり、竜軌が代弁してやる。
「おお、これは見事なおさるさんですな!これまでいただいたおさるさんの中でもピカイチです。何と、バナナは本物。ありがたくおやつにします」
それから美羽は、福岡で獲得した戦利品を、力丸のベッドの上に並べて行った。
老人ホームや梨狩りなどの宣伝広告のチラシ、赤い葉っぱ、黄色い葉っぱ、ホテルのアメニティグッズ、ビー玉入りサイダー瓶、お食事処などのレシート。
これら全てを、美羽は負傷したランスロットに進呈することにした。精一杯の気持ちだ。
竜軌に買ってもらった桜染めのスカーフは、どうしても譲れなかった。
〝本当は、探検団に提出しようと思ってたお土産だけど。あなたにあげるわ〟
「よろしいのですか、かように大事な品々を」
美羽は頷く。
〝ヘビのぬけがらをもらったから。あれは家宝にするわ〟
ということは、将来的には新庄家の家宝に蛇の抜け殻が加わるのだろうかと竜軌は考え、幾分、気が滅入った。
力丸が身を乗り出す。
「お目が高い!あれ、大きかったでしょう」
〝大きかった。かっこよかった〟
「左様。真、その通りなのです。あれは俺が、小学二年の時に発見したお宝でして。金運も、きっと美羽様に招いてくれましょうぞ」
「…ぬいぐるみが多いな。特にさるのが」
きりがないと思った竜軌が、力丸の枕元を見て控えめにコメントを挟む。
「そうなのです、上様。なぜか。しかし!こちらをご覧ください」
あんまり見たくなかったな、と竜軌は思った。
力丸が指した小テーブルの上には、某戦国武将のフィギュアが燦然と光を浴びて立っていた。
「ぼんちゃんからの見舞いの品です。奴め、ナルシストですな」
力丸が、かかかと笑った。
某戦国武将の幼名は梵天丸と言う。
「…お前、あいつと交流があったのか?」
竜軌でさえその生まれ変わりの話は知らなかった。
「いえ、今回の一件、どうやらあちらの耳にも入ったらしく先日、初めて会ったのです。見舞いに来てくれまして。前生において同い年だった誼で、仲良くなりました。あちらは今生においても右目を失ったそうです。因縁ですかなあ。まあ、失った目は異なれど、隻眼同士、うまが合ったと申しますか。因みに俺は、りっきーと呼ばれております」
「ふーん」
(あいつは遅れて来た英雄とか呼ばれてるな。生意気)
竜軌が手を伸ばしてフイギュアを持ち、しげしげと見る。細かな所までよく出来た作りだ。
〝刀、たくさん持ってる。クールだわ〟
「そうなのです。ぼんちゃんは色々と格好よくイメージされており、俺は羨ましくも悔しいのです。上様、俺のフィギュアはないのでしょうか」
「お前、莫迦の割りに夭折だったしな。大河ドラマにはちょいちょい出るだろう。それで満足しとけ。俺はフィギュアにもなってるけどな。蘭のもあるんじゃないか?」
「いーいなああ。兄上~」
力丸が美羽から進呈されたお宝を避けてベッドの上にばふっと上半身を投げ出す。
美羽は某戦国武将のフィギュアに夢中で見入っていて、これらの会話を聴いていない。




