ランスロットの目
ランスロットの目
竜軌は、肝心な時はちゃんと大人になることを美羽は知っている。
今も、困ったような顔で美羽を見ている。
椅子に座った美羽の顔を、下から宥め、慰める瞳で見ている。
「――――――美羽」
〝病院に、行きたい〟
竜軌が思案する表情になる。
「…お前が嘆けば、力丸も嘆く」
「りゅうき」
〝あの、朝林って人が、昔の私のお兄さんなのね?お兄さんで、力丸に、大ケガさせた〟
「そうだ」
美羽は、秋月の、紅葉の降る中で言ったことを覚えていなかった。
竜軌はそれで良いと考えている。
〝力丸に申し訳ないわ。私、あの子に、左目を返したい〟
文字を綴る途中から、美羽は涙をこぼしていた。
「りゅうき、」
〝お願い。力丸に、私の左目をあげて〟
「それは無理だ、美羽。眼球の損傷が激しくて、角膜移植しても意味が無い。生きた健康な人間が角膜を提供することも有り得ない」
〝私は全然知らないで、はしゃいで遊んでた〟
「知っていた上でお前との観光を優先した、俺のほうが罪深い」
〝あの子は大丈夫?〟
「あいつは強い。加えて元気で莫迦だ。お前に褒めてもらうことがあるのだそうだぞ」
何だろう、と美羽は泣き腫らした目で考える。
〝明日、病院に、行くわ。泣かないように頑張る〟
「りゅうき、」
「解っている。ついて行くよ、美羽。俺も一緒だ」
美羽は、立ち上がった竜軌のデニムシャツに顔を押し付けてしばらく泣いた。




