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香辛料の瓶

香辛料の瓶


 新庄邸を出た真白は大学の講義に出席し、帰宅途中、スーパーに寄って荒太に頼まれていた夕飯の材料を買っていた。

〝では門倉剣護は?〟

 すぐには答えられなかった。

 真白の前生である若雪の初恋は、長兄の太郎清隆だった。

 冗談であっても、嫁になるかと言われた時は本気で喜んだ。

 真白の初恋は、その生まれ変わりである従兄弟・門倉剣護だった。

 真白が荒太と結婚した今でも、剣護は真白を愛している。

 恐らくこの先もずっと。

 強くて優しい剣護は、多くの女性に恋焦がれられるだろう。

 それを申し訳なさそうに断りながら剣護が独り身を通すだろうことが、真白には手に取るように予見出来る。

(私は、辛いと思いながらも喜んでいる。ひどい妹。…ひどい女)

 香辛料の瓶を手に取って名前を確認し、買い物かごに入れる。

「真白様」

 声のしたほうに顔を向けると、兵庫が立っていた。

 荒太とは方向性が違うが、シンプルで垢抜けた格好をしている。

 いつも胸に下げているネックレスは思い入れのある品なのだろうか。

 シニカルで大人の色気があり、今生でも女性に人気があるのは納得出来る。

 茶髪がよく似合う忍びに、真白は笑いかけた。

「どうしてここにいるの?」

「お宅に伺う途中に、荒太様への手土産をと思いまして」

「お酒の肴?また二人で飲むの?」

 兵庫も笑う。

「よろしければ真白様も御一緒に。香辛料の瓶を、この世の終わりみたいなお顔で見てるよりは気が晴れますよ」

 見られていたか、と恥ずかしく思う。これだから忍びという人種は油断ならない。

 夫である荒太も忍びなのだが。

「…そんな顔してた?やだな」

「何かお悩みですか」

 さらりと女性に手を差し伸べる、彼はフェミニストなのだ。

「ちょっと。変わらないね、兵庫。いつも女性の味方」

「俺の信条ですよ」

「……飲んじゃおうかな、今日は。荒太君、嫌がらないかな」

「ほろ酔いの雪に見惚れるでしょう」

「キザー!」

「俺は気障が様になる男ですから」

 涼しい顔で言ってのける兵庫に助けられたと真白は思った。

 若雪の言葉によって兵庫は動き、結果として本能寺の変で命を落とした。

 真白は今でも自分を責めているが、兵庫はいつも、謝るなと態度で示すのだ。

 


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