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平安朝の雅

平安朝の雅


 それは言うなれば巨大なかぐや姫ロボットだった。

 華麗な十二単を纏い、極彩色の衵扇を手に持つ文子が滝よりも大きく聳え立ち、微笑んでいる。雲さえ突き抜け日輪を背負い、壮大なことこの上ない。

「かあさん…。今日は、一段と。大らかですね」

 竜軌は言葉を選んだ。

 文子の目元に笑い皺が出来る。

『ほほ、そうでもありませんよ。母はこれでも、立腹しているのです』

 口を衵扇で覆い、そうのたまう。

「…なぜですか」

 文子の立腹など、これまでに聴いたことがない。

『あら、おとぼけになる。竜軌さんが、いつまで経っても、マダム・バタフライに追い付いてあげないからに決まってるじゃありませんか。彼女、あなたのこと、とっても待ってるのよ?さ、竜軌さん。これにお乗りなさい』

 巨大で煌びやかな衵扇を身体に近付けられ、それを凝視する。

「…これに、ですか」

『そう。さ、お早く。母があなたを、マダム・バタフライのところへ導いて差し上げます』

 のんびりした飛行船のようなものだろうか。

 ほとほと横着がしたい気分で一杯だった竜軌は、巨大な文子の誘いと衵扇に乗ることにした。

 そして、あとから後悔した。

 文子は衵扇に乗った息子を、『あそれ、』と長閑な声を上げて放り投げたのである。

 空に大の字になり、高々と舞い上がった竜軌は、ただただ目を見開いていた。

 口も開いていたかもしれない。

(乱暴にもほどがあるだろう、母さん!)

 彼の心の苦情は、文子には届かなかった。

『…行ったようですね』

 竜軌を彼方遠くへ飛ばした文子は役目を終えたように頬を緩め、ズシーン、ズシーン、と大きな足音を響かせながら、息子を飛ばしたのとは逆の方向へ去って行った。途中で、『あら、ティラノザウルスを蹴ってしまったわ…。急に飛び出して来るものだから。可哀そうに』というおっとりした声が、遠くから風と共に聴こえて来た。

 その間もミスター・レインは心乱されることなく、写経を粛々と続けていた。



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