竹林に降る小雪
竹林に降る小雪
場面は一転して笹の葉擦れが清かに鳴る竹林。
あどけなくも凛とした声が響いた。
「ほわいと・れでぃ、まいります」
降って来た懐剣を、竜軌は六王の刃で弾いた。
「なかなか、おやりになる。ですがらんすろっとのかたきにはまけませんよ」
地に降り立ったホワイト・レディが微笑み、雪華を構え直す。
「…死んでないが」
「にげこうじょうはみぐるしくてよっ」
(――――――真白はそんなことは言わんだろう、美羽)
胸中で突っ込みつつ、次々と繰り出される雪華の刃をかわしまくる。
手加減しているのではなく、鋭過ぎる剣捌きに防御する他ないのである。
長い槍を手にした大の男が、短い懐剣を持った女児に苦戦している。
ホワイト・レディは雪華を手に右に左に自在に小さな身体を閃かせ、竜軌に幾つかのかすり傷を負わせた。場数を踏んでいる竜軌ですら目で姿が追えない。現実以上に強い気がする。無茶苦茶だ。
(こいつ、夢でも最強か………っ)
「タイム!」
竜軌は子供限定で効果がある必殺の言葉を叫んだ。
俊敏に動いていたホワイト・レディがピタリと止まる。
「たいむは、さんかいまでですよ」
構えを解かないままでそう言う。
(がきで助かった)
正攻法では敵わず逃走も見逃してくれそうにない。
笹の葉擦れを聴きながら考える。
では策略を用いるしかない。
「――――ああ、そう言えばお前に伝言を頼まれていた。忘れるところだった」
いかにも今思い出したような顔を作る。
「でんごん?」
ホワイト・レディが綺麗な眉を動かす。
「ああ。荒太が、夕飯が出来たから早く戻って来いと言っていた」
「こうたくんが!?」
戦士の表情から女の子の表情に早変わりする。
「食後にはケーキもあるそうだ」
「けーきっ」
つぶらな瞳に星が浮かぶ。
(そおら、喰いつけ、喰いつけ)
「それから門倉剣護も、お前にコーヒーを淹れて欲しいと待ってたな」
「けんごが、そ、それは、」
ホワイト・レディがぐらぐらと揺れている。
大人のあくどさを以て、竜軌はここぞとばかり清廉な女戦士に、寛容な妥協案を提示する演技を見せた。ゆったりと語りかける。
「なあ、ホワイト・レディ。俺はここで一旦、休戦にしても構わんぞ」
「ほんとう?おじさん!」
「お兄さんは大人だからね」
お兄さん、の発音を強調して笑顔を作る。
「で、でも、らんすろっとのかたきを、」
「ランスロットもきっと解ってくれるさ」
(死んでないし)
そうかもしれない、とホワイト・レディが頷く。
「あのこは、いいこだもの」
「そうだとも」
(莫迦だが)
内心は隠して竜軌もにこやかに頷く。
「それじゃあ、わたしいくね。ありがとう、おじさん。またねっ」
「………またね」
ホワイト・レディは満面の笑顔で、雪華を消して空いた両手をぶんぶんと竜軌に振りながら、小走りに竹林の向こうへ駆けて行った。
荒太は信じる心の重要性を説いたが竜軌は夢の世界を彷徨う内に、何を信じれば良いのか解らなくなっていた。




