未知
未知
コッコ、コケ、コッコ、と鳴けば大多数の人が鶏がいると判断するように、竜軌も鳴き声だけが耳に届いた時点では単純にそう判断していた。
だがジャングルで雄叫びを上げながら飛び回るターザンと遭遇したあと、開けた視界で竜軌が目にしたのは単純な生き物ではなかった。よく知っている相手と言えばそうなのだが、竜軌は正直なところ美羽の夢の中に入って初めて、目が点になった。
クレヨンで塗り潰したような妙に平坦に青い空の下、少女趣味な蓮華畑の中に頭を振りながら立っていたのは。
「………………親父…?」
「りゅうちゃん。たかちゃんと呼んでくれたまえ、コッコ」
孝彰の顔を持つ鶏がそう喋った。
「コッコ、国庫が苦しいのは、たかちゃんとしても遺憾、コケッコ!」
バサバサ、と羽を動かす。羽が当たった蓮華の、ピンク紫の花びらが散る。
「……親父」
変わり果てた姿に、と思う。笑いたいところだが笑えない。
「たかちゃんだよ、コッコ、コ、とおっても、えらい政治家、ケッコー」
「頭が重くはないか?」
「うん、だーあいじょおーぶだあー。コーケコッコーッ!!」
また羽を忙しく動かす。
竜軌は美羽の中の孝彰像が本気で理解出来なくなった。
「たかちゃんは、みわちゃんの、おとうさんだよ。コケッ。りゅうちゃんと、ふみこたんと、みんななかよし、家族だよ、ココッコ」
そう言って、蓮華畑の上を飛んでいた蜂をパク、と食べる。
むしゃむしゃごくん、と孝彰は満足そうに目を細めた。
(美羽の理想を口にする親父か。他の要素の意味はさっぱり見当もつかんが)
「みわちゃんは、コッコ、かわいい、良い子、ケッコー、りゅうちゃんの、お嫁さんに、ケッコー」
「それ、早く現実で美羽に言ってやれよ。親父」
「たかちゃんだよ!」
「たかちゃん」
「わかったー」
バサバサバサ、と孝彰が一際高く蓮華の花の中を跳び上がる。
「政治家でもたかちゃんでも約束は守れよ。でないとフライドチキンにするぞ」
「それは、ケッコー、じゃない!」
羽を撒き散らして孝彰は逃げて行った。




