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どして

どして


 夕刻、美羽を背負った竜軌と雪華を手にした真白が、成瀬家のリビングに降って湧いた。

 三十分くらい前まで階下で酒を飲み、賭け事に興じていた男たちは驚くこともなく、何食わぬ顔で彼らを出迎えた。しかし濃いアルコール臭は誤魔化しようがない。

 しょうがない人たち、と思いながら真白は笑った。

「ただいま、お姫様は連れ帰ったわよ」

 そう告げて眠る美羽をじゃん、と掌で示す。

 ブラボー、さすが俺の妹、などと拍手喝采を上げ、男たちも安堵に顔を緩めた。

「お帰り、真白さん。お疲れ様」

「ただいま、荒太君。パウンドケーキ、大活躍だったわ。やっくん…、薬師如来さんから美羽さんの帰宅許可が下りたのも、半分はケーキのお蔭よ。持つべきはお料理上手な旦那様ね」

「本当?それなら俺も、朝っぱらからケーキを焼いた甲斐があったよ」

 荒太も妻の台詞に嬉しそうに答える。

「うん、ありがとう」

「で、何で魔王はあんなに仏頂面?」

 剣護も兵庫も怜も、ピリピリした空気を纏う竜軌を危ぶむ顔で見ている。

 山尾は剣護の脚の後ろに張り付き、顔だけをそっと覗かせていた。

「…探検団の絆にノックアウトされたからかしら」

 真白が控えめな見解を述べる。

 果敢にも剣護が竜軌に近付き、背中の美羽を窺い、緑の目を瞬かせた。

「俺に何も質問するなよ、門倉」

「どして美羽さん、寝てるの?チラシ抱き締めて」

 低く脅すような声を無視した剣護の問いかけに竜軌が殺気立ち、空気が張り詰める。

「え、どしたよ、新庄。俺、何か悪いこと言った?」

「剣護、りゅうちゃんは今、とっても傷心なの」

「喧嘩を売ってるんなら買うぞ、真白」

 険しい目で睨んで来る竜軌に、真白はにこ、と笑い返す。

(やっぱり怒る。可愛くて良い呼び名なのに。男の人って照れ屋でダメね)

 笑い返しながらそんなことを考えている。

「どしてりゅうちゃんは傷心なの?」

「――――――門倉、貴様」

 剣護は酒に酔っている訳ではない。悪気も無い。これは彼の素の顔であり、性格だった。この場に置いて、遊戯の傍ら、多少のブランデーを呷ったくらいで酔っ払うような可愛げのある男は猫を含めてもいない。真白と剣護の兄妹は大まかに分けると、天然、且つ空気が読めない部類に入る。

「よし。じゃあこうしよう。なぜ、〝りゅうちゃん〟が傷心であるのか。見事、正解した者にはさっき俺がゲームで獲得した賭け金を進呈する」

 張り詰めた空気に冷静な声でとどめの爆弾を投下したのは怜だった。男たちの間にざわめきが走る。中でも剣護と山尾の瞳が強く光った。

「江藤!」

 竜軌の怒声に、秀麗な顔が魅惑的に微笑む。

 怜も、もちろん酔っていない。頭脳は聡明で兄や妹と違い空気も読める。但し悪気はあった。空気を読み、悪気があるからこその爆弾発言だった。怜は竜軌を快く思っていない。竜軌の唯我独尊、傲岸不遜な性格のツケが今この時、当人に回って来たと言える。

 次郎兄ったら、と呆れながら真白も止めない。

 俄然、勢いづいた剣護が挙手する。

「よおおおっしゃあっ、はい、美羽さんが神界で他の恋人を作ってすげえ良い感じだった!」

「残念。剣護、はずれー」

 山尾も肉球のついた手を挙げ、それでは足りないとばかりに尻尾と一緒に振り回す。長身な男たちに囲まれ真白に見落とされまいと、彼はテーブルの上に立って可能な限り背伸びしていた。

「はいはいはい!美羽様の大本命は実は私であり、猫こそが至上の生き物と断言された!」

「山尾もはずれ~。本気で当てに来てる?」

 グレーの猫が髭をぴんと張って鼻息も荒く答える。

「もちろんですとも!私は長らく美羽様と寝起きを共にしましたので、その間に私のジェントルマンな忍びの在り様にいたく心惹かれた可能性は非常に大きいものと予測され、」

 兵庫や荒太も面白がってこの騒ぎに参加したので、事態はいよいよ収拾がつかなくなった。夜に至り、堪忍袋の緒が切れた竜軌が六王を、怜が虎封(こほう)を呼び出し、真白が雪華を再度呼び出して二人の争いを止め、猫と人々は解散する運びとなった。クイズの賞金は結局、問題提出者兼、賞金提供者である怜自身の手に戻り、剣護と山尾は悔しさに地団太を踏んだ。

 


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