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心の有無

心の有無


 六角堂から出て来た竜軌が呼んだ。

「おい、薬師如来」

 湖を見ていた薬師如来と真白が同時に振り返る。

「おう、雷電に打たれなんだか。重畳」

「起きんぞ」

「娘がか?」

「他に誰がいる」

 スウェットの上にある表情は常に平らかで、晴れた日に残った水溜りほども揺らぐ様子を見せない。金色の瞳は静穏そのもの。

 こいつには心があるのだろうか、と竜軌は思う。

 人のように笑い、胸を痛めて涙することがあるのだろうか。

(無いかもな)

 あれば務まらない存在のような気がする。

 患者の感情に深入りして自らも心を病んでしまう心理カウンセラーのように。

(発狂しそうだ。心を超越したからこそ成り立っているのだ)

「何やら思案しておるようだが。お主よもや『眠れる森の美女』のように、くちづけすれば娘が目覚めるなどと、乙女チックでロマンチックな考え違いをしておったのではあるまいな」

「…………」

 していた。

 揺れない水溜りにやや呆れた色が宿る。

「この薬師如来がもたらした眠りぞ?そのような民間療法臭いことで破れるものか。どれ、退きなさい」

「お前なら起こせるんだな?」

「左様。それから信長、仏をお前呼ばわりするは不遜ぞ。私であっても気分を害する」

「…薬師如来様と?」

「それはお主のキャラではなかろ。そう、やっくんとでも呼ぶが良い」

 瑠璃光浄土に清らかな風が吹く。

 暑くもなく寒くもない平和で神秘に満ちた世界。

 竜軌は身動きを止めて薬師如来の平らかな顔を見ていた。

 平らかさにはいたずら心が垣間見える。

「冗談だ。それはもっとお主のキャラではなかろ。では参ろうか」

 薬師如来に続いて竜軌、真白が再び六角堂の中に入って行った。

 神仏にも心はあるかもしれない。



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