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眠れる君

眠れる君


 真白がそ、と紙の箱を差し出した。

「あのこれ、荒太君が焼いたパウンドケーキです。前回と今回のお礼と思い、持って来ました。とっても美味しいので」

「これは。お気持ち、有り難くいただこう。雪の御方。今回は取り立てて、便宜を図った訳ではないのだが」

 瑠璃光浄土の中で、真白の心ばかりの礼を、スウェット姿の薬師如来は受け取った。

 真白は原初が峰の白雪から生まれた神であり、神仏の世界では「雪の御方」といった尊称で呼ばれ神位も非常に高い。

 パウンドケーキの入った箱を受け取った薬師如来は、刈りこまれたような短髪で背は真白より低く、容姿は平凡。

 纏う空気は極めて非凡だった。

 阿弥陀如来の国土を極楽浄土と呼ぶならば、薬師如来の世界は瑠璃の光り輝く浄土、瑠璃光浄土と呼ぶと言う。


 瑠璃の浄土は潔し 月の光はさやかにて 像法転ずる末の世に 遍く照らせば底も無し


 真白と竜軌は神器・雪華の導きで瑠璃光浄土に来ていた。

 梁塵秘抄に載っていた今様が竜軌の頭に浮かぶ。

 歌のままの世界だと思い、薬師如来を観察する。

(薬壺は見当たらんが、確かに白毫はあるな。ふうん、これが薬師如来か)

 カメラバッグが欲しいなと思う。滅多にお目にかかれない浄土の世界を映してみたい。

「うろうろと、目が落ち着かんな。信長。稀なる巫よ」

 からかう口調で薬師如来がのんびりと声をかける。

「この世界は撮影禁止か」

「別段、禁じてはおらんよ。カメラに映らんだけで」

 軽く舌打ちする竜軌を横に、真白が薬師如来に迫る。

「六角堂の中に彼を入れても?」

「良いよ」

 堂の周辺に広がる満天を映した湖に視線を投げてから、竜軌は真白に続いて堂内に入った。

 そこに浴衣姿の美羽が昏々と眠っていた。



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