行き先は告げる
行き先は告げる
真白は荒太の隣で目を覚ました。
彼女の顔には明るい微笑みがあった。
荒太におはようの挨拶をして、カーテンを開けよう。
朝の光を部屋に取り込むのだ。
今日はきっと、良い一日になる。
寝起きの良い荒太は、毎朝しゃっきり起きて、顔を洗いうがいをする。そして朝日を拝むと商売繁盛の咒言を八回、唱える。それから朝食の支度に取りかかる。
この咒言を唱える習慣は前生より続いている日課だ。
今日は妻のほうが早起きだったなと思い顔を彼女に向ける。
「おはよう、荒太君」
「おはよう、真白さん。…機嫌良いね。良い夢でも見た?」
「うん。うふふふふ」
真白が口元を押さえて笑う。
「え、何」
真白は答えず、ベッドから元気に飛び降りると、カーテンをシャッと開けた。
寝室に眩しい光が満ちる。それから真白は荒太の部屋に眠る竜軌の元へ向かった。
昨晩とは逆に、竜軌がくるまったお布団を容赦なく引っぺがす。
「先輩、起きてくださいっ」
「…あと一時間五十分寝かせろ」
「ぐうたらか。ダメです、起きなさいって言ってんの、こら!」
妻のあとを追って来た荒太が止める間も無く、真白は竜軌の胸倉を掴むと、パパパパパン、と小気味いい音を響かせて彼を引っぱたいた。
当然ながら、竜軌は目覚めた。呆気に取られた顔で目を瞬かせてから、のそのそ、と上体を起こす。
「真白、お前。寝る前は観音のように子守唄を歌い、翌朝になれば明王のように連続平手打ちか。キャラを統一しろ」
「そんなんどうでも良いんです、行きますよ、先輩っ!」
「どこへ?夢の国?」
竜軌は依然として寝惚け眼だ。久しぶりの快眠、睡眠に、彼はまだ未練があった。
真白が高らかに告げる。
「瑠璃光浄土です、さあ、解ったら早く起きなさい!」
行き先は解ったが、そこへ行く理由が竜軌には解らなかった。




