清浄夢幻
清浄夢幻
真白は満天の星の下にいた。
紺碧に散る無数の輝き、そして月が二つある。
そう思ったらそれは、空の月と、湖に映る月だった。
月光の清かであることは驚くほどであった。
冴え冴えと降り、地までを満たす。
清浄を絵に描いたようなこの世界には、前にも来たことがある。
なぜまた自分はここにいるのだろう。
(招かれた?)
思い当たる存在に再会が叶うのなら、昔、世話になったお礼を言いたい。
きっと相手は淡々として、大したことはしていないと言うだろう。
さやさやと揺れる草原を歩んで行けば、記憶と変わらない六角堂が見えて来る。
その横手に、スウェットの上下を着た小柄な影。
立場や称号に似合わず、相変わらずカジュアルで通しているらしい。間違いない。
手招きに従い、真白は近付く。
これは夢であり現なのだ。
お久しゅうと言われ、お辞儀を返す。
昔と同じように、堂の内に参られよ、と言われて頷く。
六角堂の階に真白が足をかけても、木が軋む音さえ鳴らない。
招いた相手の背中を追うように、トン、トン、と身軽に登る。
堂の入口に至るとその中を、清浄な世界の主は指で示した。




