告白
告白
竜軌はその足で直接、力丸の入院する病院に出向いた。
名前の書かれたプレートを見て確認してから戸をノックする。
「どうぞ!」
転んでも笑う莫迦、という言葉が浮かぶ。
「名誉の負傷のあとにしては元気があるな、力丸」
華やかな美少年の顔がより明るくなる。だが表情を大きく動かそうとすると痛むらしく、そのあとに顔をしかめた。
美貌だけに、縫合の跡が痛々しく際立つ。左目の上にも傷が走っている。
「これは上様、直々のお見舞い、かたじけのうございます。どうぞ、お座りください」
「すぐ来られずに悪かった」
「いえ、美羽様とランデブー、楽しまれましたか!?」
「………」
「上様?」
「力丸」
「はい、」
子犬のように無邪気な笑顔で力丸が答える。
「美羽はもういない」
力丸が奇妙な顔になる。
「…どういうことでしょうか」
「あれは消えた。恐らく、朝林の元に。これより以後、美羽のことは敵と心得よ」
「――――――――承服致しかねます。美羽様が、上様を裏切るなど有り得ぬ」
予想通りの反応だった。
「有り得ぬことが有り得るのが人の世だ、力丸」
「有り得ぬ」
「聞き分けろ」
「有り得ぬと言うたら有り得ぬのだっ!!」
傷の痛みもお構いなしに、力丸が唾を飛ばして怒鳴った。
主君である信長に、竜軌に、そのような怒声をぶつけたのはこれが初めてだった。
強く真っ直ぐに光るまなこには、真っ直ぐな思慕が見えた。
「やはり美羽に惚れていたか」
「はい、惚れておりました!されど相手にもされなければ、わりない仲にもなっておりませぬ、美羽様は一筋に上様を愛しておられましたゆえっ!」
てらいも恥じらいもなく、力丸は大声で告白した。
それだけの、価値ある女性に惚れた自負が彼にはあった。
「……何ゆえですか、上様。美羽様が消えた、ただそれだけで、何ゆえあの方の裏切りを決めつけられます!たとい義龍の元に走ったとて、美羽様なりの、事情がおありだったに相違―――――――」
「傷のこともある。お前は戦線から離れろ、力丸」
「上様っ。お待ちを!それでは御自身が、必ずや後悔されます、力丸、生涯の頼みです、どうか美羽様を、」
「傷をいとえ」
「上様!!愛しておられぬのかっ!!上様っ!!」
竜軌は力丸の勧めた椅子に安らぐことなく、立ったままで会話を進め、終わらせ、出て行った。背を追う声はどこまでも真っ直ぐだった。
(あいつのような奴に愛されたなら。或いは美羽も、ずっと幸せだったかもしれない)
お日様のように笑う少年は、竜軌が密かに対抗意識を持つ門倉剣護にも似ている。




