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同じ目で語る

同じ目で語る


 赤い紅葉、黄緑、黄、季節に染まらぬ濃緑が、美羽たちの頭上にあった。

 木造の校舎を見た美羽は素敵、と思い、忘れ物を夜、取りに行くのは絶対に嫌だとも思った。古くて、情緒がある木造は、怪談話をも連想させる。

 その横のほうには石段があり、登ると開けた場所に出た。

 常緑樹を脇に従え、秋月の名に恥じぬ錦繍が広がっていた。

 美羽は天を仰ぎ、動かなかった。

「美羽?寒いか?」

「りゅうき」

〝火の海みたいと思って〟

 竜軌は黙った。

(きっと、こんな赤に囲まれて)

 美羽は竜軌と死んだのだろう。ならば寂しくはない最期だった。

 天から光が降って来る。

 紅葉の隙間を貫き、美羽まで届く。

「…美羽。死を、願ったことがあるか」

 美羽は紅葉から竜軌に視線を移した。

〝あるわ〟

 それ以外の顔がなぜか出来なくて、美羽は笑った。

 秋風が吹き抜けるが、美羽は寒さを感じなかった。

 彼女は、もっと寒い記憶を思い出していた。

(包丁を持ったお父さんから、私は咄嗟に逃げたけど。家に戻って、お父さんが、血塗れのお母さんの傍で首を吊っているのを見た時、置いて行かれてしまったと感じた。逃げなければ、一緒に、逝けたのに。独りぼっちにもならなかったのに)

 美羽は笑顔のまま続けた。

〝でもね、竜軌。人って、願うだけでは死ねないの〟

「…………」

〝願いって、あんまり報われないものでしょう〟

「お前の願いが、報われなくて良かった」

〝私も今はそう思ってる。生き延びたから、竜軌に逢えたんだもの〟



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