休業日
休業日
辿り着けなかったらただじゃおかねえ、と目をぎらつかせた竜軌を四苦八苦して美羽は店まで案内した。
美味な燻製で知られる『枉賀亭』の休業日は月曜だった。
美羽は竜軌の身体からゆらりと立ち上る怒気を見た。
旧武家屋敷の並ぶ、閑静で情緒ある家々の並ぶ一画、本気で逃走することを考えた。
だが履き慣れたパンプスとは言え、脚の長さ、脚力が違う。そう思い及び、逃走は断念する。
「美羽」
想像よりは静かな声で呼ばれる。
美羽は返事をするように直立不動した。
「計画的犯行か否かによって、お前へのお仕置きを検討する」
〝私も知らなかったのよっ〟
「サスペンスドラマで容疑者が言うな、よく。共犯格に多い」
美羽は、巻いていた桜色のストールを竜軌の首にかけた。
「…どういうことだ?」
〝私のぶん、あげるから。怒らないで。竜軌〟
「男が使えるか。よし、お前、されて嫌なことは何だ?俺は真性のサドだからな。それで手を打ってやる」
〝ひどいっ、血も涙も無いわ〟
「それはお前だ、お前だって仕分けりゃSだ、攻めだ、ああ、解らんで良い」
「りゅうき」
〝本当に、悪かったと思ってる〟
竜軌は黙りこくっていたが、やがて口を開いた。
「………黒門とか長屋門とか、見に行くか。近くにある学校は木造で、雰囲気があるらしい。そこらでシフォンケーキを喰うぞ」
ずっとケーキの箱を持ち歩いていた美羽は、頷いた。
「りゅうき。りゅうき。りゅうき」
〝ごめん、ありがとう〟
「ああ、もう怒ってない」
声は穏やかで、言葉を裏切らなかった。




