悪知恵でふるさと
悪知恵でふるさと
何時間もかけて電車を乗り継ぎ、本数の極めて限られたバスに延々、揺られて、竜軌はその日、何度目かになる台詞を口にした。
「何で秋月なんだ」
バスの窓からはゆったりと流れる幅広い川、山々が見渡せる。
川の流れは澄んで、秋の陽を受けて水面がちらちらと光り、躍っている。
まさに『ふるさと』の歌が似合いそうな景色だ。東京都心では望むべくもない。
〝城下町だし〟
「大宰府天満宮のほうが行きやすいし有名どころだろう。あそこは学問の神様が祀られてる。美羽は行っておいたが良いと俺は思うぞ。賢明さが身につくかもしれん」
〝うるさい、竜軌の皮肉屋っ。福岡の、お城に行ったとなれば、はくがつくでしょ!活動場所に、九州のお城まで含めたら、「すごいなあ」って思って、会員もきっと増える〟
そうだろうか。そして美羽には探検団の活動を竜軌に隠すつもりが、もう余り無いようだ。
「正確には城跡だが。舞鶴城じゃいかんのか」
〝城下町じゃないもの〟
どうも美羽の世界の中心には、探検団がでんと鎮座している気がする。
五百円玉とでさえ、ぎりぎりで比較されてしまった竜軌だ。
俺と探検団とどっちが大事かと尋ねれば、平然と後者を答えられかねない。
「りゅうき」
呼びかける蝶の目には悪知恵を働かせた輝き。
〝秋月には美味しいくんせいベーコンの店が〟
「…あるのか。なぜ知ってる」
〝口コミ情報、見た〟
ベーコンの燻製といった酒の肴の類は竜軌の好物である。
それを知る美羽は、二人掛けの座席の横に座る竜軌を見てにやにやしている。
「―――――俺を操縦しようなどと考えるなよ。ここまで来ては引き返すほうが面倒なだけだからな。大体、紅葉シーズンは人がくそ多いんだ。レンタカー使っても駐車場所を探すのが面倒だし。あと、俺は酒を飲むが、お前は絶対に飲むな。良いか。絶対にだぞ」
〝はいはいはいはい〟
「莫迦にしてるだろう」
「りゅうきー」
「してるな」




