朝ご飯
朝ご飯
左目が開かないと力丸は思った。
右目に朝の気配は感じるのだが、左の視界は暗く閉ざされたままだ。
「力丸。起きたか。傷の具合はどうだ、痛むか?」
右目を巡らせれば兄の坊丸がいた。
「兄上。朝ご飯は?」
「お前は確かに清流の主だ。そら、お前の目の前にあるだろう」
「お櫃が見当たらん!」
「病院食ではそれが限界なのだ、これでも新庄氏縁の病院ということで部屋から何から優遇されている、刀傷に通報もされず。我慢しろ」
力丸は情けなさそうに上品な個室内を狭い視界で見渡した。
「大部屋で良い。三杯は喰いたい」
「あとでナースと交渉してみる、まずは目の前の食事を済ませろ」
「うぬ。約束だぞ。俺の左目はもう見えんのだな」
平生通りの調子で確認した弟の言葉に、坊丸は数秒、声を出さなかった。
「そうだ」
「飯が喰いにくい」
「うん。そうだろう」
「俺が生きてるし。かよは無事だな?…あいつはどうした」
「朝林なら逃げた。あとで仔細を話してやる」
「会員登録について、かよは何か言ってなかったか」
「いや、聴いてない。お前、命懸けの勧誘か。探検団に賭けてるな」
ガッと力丸が坊丸の胸倉を掴んだ。
「―――――――目のこと、美羽様には言うな」
「力丸」
「美羽様には折を見て、動揺されぬように、俺から伝える」
「力丸。兄の胸倉を掴むんじゃない。それから、決め台詞みたいにそう言ったところでお前、美羽様と顔を合わせれば左目失明は一目瞭然だぞ。ちょっと、フランケンシュタインみたいだし」
「………決まらなかった?」
「うん」
そっかー、ちぇーと言いながら箸を取り、力丸は勢いよく朝食を平らげ始めた。




