死ぬるは星と語った女
死ぬるは星と語った女
〝人が死ぬのは容易ではない〟
〝異なことを言う。この乱世に〟
〝信長は、死ぬるが怖くはないか〟
〝怖いと思うたとて。死ぬる時は死ぬる〟
〝そは、強き者の言の葉〟
〝左様であろうか〟
〝死を望み、果たせる者は一握り。心の振り切れたるのみ。多くは望みながらにして生きる。重たき身体を引き摺るように。己が身から、血の出でたるに怖けるゆえ〟
〝さぞやつまらぬ生であろうな〟
〝つまらずとも生きるのだ。願うだけで死ねるなら、私は信長には会うておるまい〟
〝願うたか。帰蝶〟
〝幾度も幾度も。星に焦がれる童のように〟
〝美しき言葉で、俺を怒らせるな〟
〝地獄を見た女の言うことだ。大目に見よ。それに人は、ただ願うだけでは死ねぬのだ。今、この時にも世は、人の悲鳴に満ちておる。心の底から死を願う者が、数多おろう。したがその全て、思いを遂げては世に人は、日照りに振る雨粒ほども、残るまいぞ。のう、信長。私はそに思い馳せし時、御仏の計らいの、実に妙なるを感じるのだ〟
〝仏を買い被り過ぎだ。お前の語るが真ならば、所詮は心冷たき者の、秤にかけたるが末の世ではないか〟
〝されば私は御仏に感謝しよう。心冷たく、秤にかけたるがゆえに、私は地獄に死を願うも叶わず、かように生き延び、信長に出逢えたのだから〟




