言霊
言霊
意地が悪かっただろうか。
思惑はともかく、せっかくくれた香り袋を突き返すような真似をした。
そのことには怒られなかったけれど。
〝男の部屋にのこのこと入るな!〟
養護施設では、余りプライバシーが保たれなかった。
年少も年長も男女も、比較的、近しく育つ。それも善し悪しではあった。
確かに仲の良かった男友達に、自分は男女の垣根に無頓着だと言われたことがある。
苦笑混じりに注意された。
竜軌が咎めたのも、自分の行為を非常識と呆れてのことだろう。
それより。
(どうして呼んだの)
蘭を見つけて案内してもらった部屋の襖を開ける直前。
〝美羽〟
そう聴こえた。
(どうして?)
財力にも体格にも恵まれている。頭の回転も速そうだ。今はぶらぶらと遊んでいるように見えるが、多分、世間に出れば切れる男と称賛されるタイプ。
あの容姿ならば女性にも不自由しないろう。
成瀬荒太とはまた異なるが、野性味がありながら整った顔立ちだ。
身に沁みついているのだろう育ちの良さが、一見、ぞんざいな挙措からも窺える。
本人がどう思っていようとあれは、王侯の類だ。美羽には空の星のようなものだ。
―――――――その星が自分の名を呼んだ。密やかに。呟きを落とした。
〝男性が女性にそんな贈り物をする理由は一つだわ〟
けれど、それがなぜ自分なのだろう。
ろくに会話を重ねてもいない。ひっぱたいたし、意味の解らない贈り物はつっぱねた。
あの星が。
黒いようにも赤いようにも輝く星が、どこでいつ、美羽を見出したのか。
あんな声で呼ばれては知りたくもなる。




