願わくば心ごと
願わくば心ごと
〝どうしてシングルじゃなくてツインなのよ〟
「そこからか」
健やかな眠りから目覚めた美羽の提示した疑問に、竜軌は突っ込んだ。
美羽は豪勢なベッドにまだ寝そべったまま、唇を尖らせている。
この我が儘娘が唇を尖らせるたびに竜軌は、ふっくらしたそれに噛みついてくれようかという衝動に駆られる。美羽を見ていると色々、噛んだり舐めたりしたくなる。我ながら獣だとは思う。
「一体、お前はいつから酔っ払っていたんだ。どうせ寝る時は同じベッドだろうが。…何で今更、赤くなってる」
〝今までは、ベッドじゃなかったし〟
「――――――ふうん?ベッドだとその気になるって?」
〝言ってない!〟
「そうだなあ。お前はまだ、愛しい俺の名前しか言えないものなあ」
〝困るわよ、着替えの時とか、お風呂入る時とか〟
「俺が他所を向いてりゃ良いんだろうが。ほら、飯に行くぞ。さっさと着替えろ」
〝この格好じゃ、ダメ?〟
「藤原さんが用意してくれたワンピースがあるだろう。綿麻の、ゆったりめの。あれなら着ていて苦じゃないだろうし、パンツスーツよりはドレスコードに適ってる。俺も着替えるんだからぶうぶう言うなよ」
「りゅうき」
〝先に着替えて〟
美羽の言葉に従い、竜軌は自分の旅行鞄の中からジャケットとワイシャツ、スラックスを取り出した。
「別に見ても良いぞ」
見晴らしの良い部屋のカーテンも開けっ放しで、竜軌はTシャツを脱ぎ捨てる。
見ても良いと言われたので見ていた美羽は、うわあ、と、声が出るかと思った。
(鋼の肉体って、こういうのを言うんだわ)
つくべき筋肉が、つくべき場所に、たくましく納まっている。
竜の魂が、それらを従えているようだ。
(ちょっと浅黒い。胸筋、出てる。お腹、割れてでこぼこ)
美羽を軽々と背負える筈だ。
胸元と腰に残る傷痕を見て、美羽はドキリとした。
タンクトップを着ようとした竜軌がそれに気付く。
「…胸のほうは古傷だし、腰のももう痛くない。美羽」
竜軌の眉尻が下がる。
きっと美羽の表情を映しているのだ。
〝もう、あんなのはやめて〟
「…解っている」
言いながらタンクトップに次いでワイシャツをさっさと羽織る。
「りゅうき」
「あ?」
美羽が出したメモ帳を見て、竜軌が動きを止める。
〝もしも本気で、それを約束してくれるなら、私は、今夜でもいい〟
竜軌はメモ帳を見て、それを持つ細い指を、腕を、そして美羽の顔を見た。
窓から入る残照に映える美羽の顔は、女より戦士と称するのが似つかわしい凛々しさだった。
「――――――…そういうことを、取り引きのように言ってくれるな。美羽」




