恐怖はぽつりと
恐怖はぽつりと
引き続き東京に耳を澄ませ、力丸が命は取り留めそうだということに安堵する。
(命さえあれば、身体の一部、損なおうと)
死は全てを終焉させるものだから。
美羽はマッサージ終了後、健やかに眠りに就いた。
マッサージ中からぐでんぐでんになり、言動不可解だった。
約束は約束、と竜軌は眠る美羽にきっちり三回、キスをした。
三回目はかなりしつこくしてやった。
(…美羽は俺を乱す。だがこいつが俺を乱さなければ、俺はもっと思いのままに、しかし殺伐と無味乾燥に生きていただろう)
存在自体が甘美な蝶は、竜の生きる糧だ。
(美羽がいなくても俺は生きて行ける。死んだ目をしてただ生きるだけだが)
あらゆる力を兼ね備えた真白のような存在を、人は大器と呼ぶのだろう。
比較して、美羽は聡明で胆力もあるが、真白ほどに抜きん出た能力は持たない。
共通するものを挙げるなら誇り高さ。
魂の気高さがそれだろう。
(傷の中でも、それを反射して煌めき、光るようで)
心冷めた男が、美しいと感銘を受けた。
義龍は妹の何に魅了されたのか。
踏み込んで考えることを、これまで忌避して来たが。
想像するのも嫌で目を逸らして来たこともある。
もしも帰蝶が―――――――。
(もしも美羽、お前が)
お前が。
あどけなく眠る美羽の顔を見る。
「お前は恐ろしい女だよ…」
魔王と呼ばれる男の独白。




