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癖になる

癖になる


(荒太はやはり使い回しが利く。周到に張られた結界に踏み入り不動明王の火界咒(かかいしゅ)に続いて魔界偈を神業めいた速さで諳んじる。つくづくあれを、前生で下に置いていて良かったな。器用貧乏と言うが、あそこまでいけば器用裕福と言えるだろう)

 美羽のふくらはぎを揉みながら、竜軌は荒太の働きに満足していた。

 病院から秀比呂を逃がしたミスも、大目に見よう。

(遅かれ早かれ、起きたことだ)

 美羽はとろけそうな表情で、目を細めている。

 慣れない靴で歩き回り、むくんだふくらはぎのマッサージが余程、気持ち良いらしい。

 足に次いでふくらはぎを揉むから裾をめくり上げろと言った竜軌の指示に、美羽は警戒する顔も見せず素直に従った。足裏マッサージが非常にお気に召したのだ。

「りゅうき~、りゅうき~」

 極楽、極楽、のように名を呼ばれると、働いてるほうもやる気が出る。

 婆さんかお前はと思う傍ら、下心も無くは無い。

(白い大根。かぶりついたら美味そうだ。怒るかな…)

 美羽の膝下を油断ならない目付きで見る。

 すると美羽が下を向いている竜軌に覆い被さって来る。下心を見抜かれたかと思うが、どうもそんな感じではない。長い髪が竜軌を通り越して部屋のカーペットについている。

「こら、美羽。どけ、動けん……お前、身体が軟らかいな」

 美羽は子供のようにじゃれついて来る。上機嫌だ。

 こんな状態には覚えがある。

「おい、お前、道歩きながらチョコをパカパカ喰ってたな」

 美羽が無邪気に頷く。

〝チョコ、大好き。エネルギーにもなる〟

 字はみみずがのたくったようだ。ほぼ間違いないだろう。

〝ラム酒漬けレーズン入り~〟

 決定打である。

 酔っ払った蝶が一人。

「阿呆かお前は!いや、疑問形は不適切だな。阿呆だ、お前は!」

「りゅうき!」

「俺は阿呆じゃない!」

「りゅうきぃー」

「黙りなさい、酔いが醒めるまで寝てなさい、この莫迦娘」

〝肩と背中と腰ももんで〟

 にこにこにこと童女のように笑うかと思えば。

「………」

〝一カ所につき、ちゅう、一回〟

 小悪魔のように囁いて来る。性質が悪い、と竜軌が顔をしかめた。

「―――――――良いだろう、約束は守れよ。あと、俺以外の男にそれ言ったらマジで切れるからな」

「りゅうきいー」

「うるさい、後ろ向け、」



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