表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/663

朱と赤

朱と赤


 振り下ろされる鬼雲を、避ける余力は無かった。

 力は全て攻めに注ぎ込んだ。

 ここが死地かと力丸は覚悟した。

(探検団の活動がまだ、)

 遠ざかる意識の中、小言の多い兄の声を聴いた気がした。


「砕巖。塵とせよ」


 凄まじい衝撃に、秀比呂の身体は吹き飛ばされた。

 鬼雲の柄を掴んだまま受け身を取り、体勢を立て直して顔を上げる。危うく鬼雲で自らを傷つけるところだった。

 念入りに、強固に閉ざした筈の結界に侵入したのは、華やかな美貌の鬼。

 悪鬼と見紛うほどに闘争心剥き出しな青年だった。

 平素は穏やかな気質である蘭が、弟を傷つけられ猛り狂う寸前だった。

 手には朱塗りの大身槍。

 素槍よりずっと刀身が長い。鞘を覆う漆の朱色は鮮やかに澄んでいて、狂気が滲んだような結界の赤を、退けんばかりの清々しさだった。

 その一方では濁った赤が乱暴な侵入の余波でより濁り、淀み、悲鳴を上げるように蠢いている。ばらりばらりと破片らしき物が落ちては溶けて、赤い地面に吸収される。それでも外界、青空までは見通せない。

「森成利か」

 秀比呂が静穏な声音で質す。

「いかにも。――――――お嬢さん。弟をお願い出来ますか。ハンカチか何かで、とにかく傷口を押さえておいてもらえると助かります。呻き声を上げようがどうぞ容赦なく」

 茫然としていた佳世が蘭の声に正気付き、身体を引き摺るようにして力丸の傍まで行くと、気絶している彼の左顔面に脱いだエプロンを当てた。

 それを遠目に見て、少女が泣かずに済むかどうかと秀比呂は考える。

 まだ戦局は決していない。秀比呂の打った布石にも、蘭は気付かずにいる。

「…怒りは冷静さを失わせる。気をつけたほうが良い」

「経験談ですか、教授?」

 秀比呂が皮肉に笑いを返す。

「そうだな。貴殿らの主は、蛇蝎のようだ」

 蘭がぎらりと睨めつける。

「蛇蝎は貴様だ、義龍。龍とは名ばかり。上様こそが天翔る竜に相応しい」

 秀比呂が細く息を吐いた。

「―――――――貴殿も愚かだ、成利」

 砕巖が唸りながら走り、鬼雲と交差した。

 空気が唄う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ