対価
対価
展示会場から出た美羽は、竜軌と土産物ショップに入った。
今回の展示に参加した作家の作品も購入出来る。
「どれか買うか?」
〝いいの?〟
「ああ。お前のあの、宝箱に入れれば良い。そんな感じのばっかりだ」
ぷっくりと可愛らしい多彩な不透明ガラスの指輪。
大きな樹脂らしきペンダントヘッドのネックレス。
透明一色の大振りなガラスのアクセサリー達。
繊細な彫金は少し高そうだが。
どれも美羽の気に入る、子供の夢のような品ばかりだ。
しかし値札を見た美羽の顔から、笑みが消えた。子供の夢も消えた。
「りゅうき」
そう呼んで腕を引っ張り、帰ろう、と意思表示する。
竜軌が不思議そうに訊いて来る。
「どうしてだ。どれか好きなのを選べば良いじゃないか」
〝ゼロが、想像してたより多かった〟
「ああ、それでその、怒り顔か。芸術家が食べて行くには金が要る。高額を要求するのは、彼らがそれだけの労苦を積み重ねて来たからだ。偽物アーティストは別として、本物には正当な対価を支払わねばフェアじゃない。美羽は、アンフェアは嫌いだろう?」
諭すようにそう言われては、頷くしかない。
〝でも、それなら、お金持ちのほうが、貧乏人より芸術に近いのね〟
「そう来られると苦しいな。いつの時代も裕福なパトロンがいれば芸術が栄えたのは事実だが……」
竜軌が困っているので、美羽は話を変えてあげることにした。
〝展示されてた、アクアマリンみたいなののネックレス、ステキだったわ〟
「誰の作品だ?」
問われて美羽は、はてと考える。入口近くにあったとしか記憶に無い。
「良いと思った物の作家名は覚えるようにしろ」
〝教養のため?〟
「いや、礼儀だ」
そう言って頭にポン、と手を置かれる。
そんな風に大人の口調でまた諭されては、美羽も再び頷くしかない。
助けてあげようとしたのに。
〝竜軌は、芸術家に優しい。理解がある〟
「嫌味か」
笑う竜軌に、美羽はそうよ?と唇を尖らせる。
竜軌が自分より他を優先したり、優しさを見せたりするのは面白くない。




