若武者
若武者
惣菜屋の長椅子に転がる少年を、店主は放っておいたが佳世は放っておかなかった。
転がったまま、コロッケを天に突き出してあぐあぐと食べている。
行儀の悪さ極まれりである。天誅とばかりに、箒の柄の先で頭を小突く。
「営業妨害やめろ、不良」
「おお、沙世。学校は良いのか」
コロッケの半分を手に握って力丸が視線を遣す。
「今日は日曜日です」
箒を壁に立てかけて、佳世が呆れた顔をする。
大概、そんな顔しかされたことがないので、力丸はそれが彼女の地顔だと思っている。
(女は笑ってこそ花であろうに)
頭脳がシンプルな彼は笑わない元凶に思いを馳せたりはしない。まだるっこしいからである。
「そっか。中学を卒業して以来、どうも曜日感覚がな」
「ニート」
「ランスロットだ」
「あんた、みわ様は良いの?」
「マダム・バタフライは博多でランデブーゆえ、探検団も休業中だ」
「たまには意味不明じゃないこと言えよ」
「――――――お前、探検団に入らんか?うちは随時、会員受付中だ。今、会員登録するともれなく特典もついて来る」
「何の勧誘?スーパー?」
今日は髪を下ろしている佳世に、力丸が食べかけのコロッケと携帯を放り投げる。
「ちょっと!」
どちらも床を直撃しては悲惨な為、思わず受け取ってしまった佳世が文句を言うべく口を開く。
が、先に力丸が短く言った。
「この戦いが終わるまでに考えとけ」
言い終わると油でベトベトになった右手の平をジーンズになすりつけ、素早く身を起こして地に降り立つ。
「は?」
「良いか。先手を打たれた以上、お前を逃がすことは最早、不可能」
少年の声はいつもより低く佳世には顔が見えない。
彼は少女を背に庇うように両足を開き立っている。
背筋はこれまでに見たこともないくらい、ぴんと伸びている。
「…何?」
「その携帯で、ミスター・レインってのに今から俺が言う通り、メールしろ」
「わ、かった」
佳世が答えた直後、少年と少女の身体を濁ったような赤が包む。
異形の空間に吞まれる。
引き締まった表情で力丸が告げる。
「ランスロット、只今戦闘中」




