バタフライ、初フライト
バタフライ、初フライト
昼過ぎ、福岡空港に着いた美羽は、事態を面白がっていた。
荷物をまとめろと言われた時は驚いたが、その展示会は福岡である、と言われてあらそうなの、と納得してしまった。
マダム・バタフライ、竜を従えての単独飛行である。
初フライトだ。
帰ったら探検団の仲間たちに、英雄譚を語って聴かせるのだ。竜軌ではなく、美羽の。
〝竜軌、高い、高い、下に雲、〟
飛行機内ではテンション高くはしゃいで竜軌に呆れられた。
福岡も秋晴れだった。
市内の天神と言う場所のホテルに荷物を預けると、早速、行くぞ、と竜軌に手を引かれる。
「りゅうき」
そう言って、美羽は竜軌の下げるカメラバッグを指差す。
「ああ、撮影自由なんだそうだ」
美羽は意外に思った。展示会というものは、写真撮影不可が普通だという印象があった。
東京も人が多いが、福岡も中心部は負けていない。
でもやはり、どこか空気が違う。新潟と東京に差異を感じるように。
南国と言うほど暖かくもない。
東京よりも大っぴらで、行き交う人の服のセンスも悪くない。
美羽はショーウィンドウに映る自分を見る。少しお姉さんぶって紺色のパンツスーツを着てみた。靴は、靴屋の店主お手製、赤いエナメルの靴。爪先が尖ったその形は、二時間以上、履いちゃいけないよ、と厳命された。外反母趾になるからね、と。今は靴を地面に馴染ませる期間で、靴は言わば未完成状態。イブの夜、竜軌から完全な形で贈られるのだ。普段使いのパンプスとは別に、これは布バッグに入れて持って来たのだ。
竜軌はショーウィンドウで自分をチェックする美羽を見て、やれやれと笑っている。
「行くぞ、マダム・バタフライ」
美羽はコードネームにすぐ反応すると、そうよ、私はマダム・バタフライ、何を恐れることがあろうか、と顎をぐっと高く掲げた。




