ちょっとそこまで
ちょっとそこまで
ハッと美羽は目覚めた。
竜軌の腕の中であることを確かめ、震える息を吐く。
「美羽?」
竜軌は気配や物音に敏感だ。
美羽が目覚めると、大抵は彼もすぐに目覚める。
「夢か?」
顎を引く。
久し振りの悪夢。
竜軌と眠れば見ない筈なのに。
竜軌が腕に力を籠める。
「安心しろ、お前を蜘蛛には渡さん」
そう言って竜軌はまた眠った。美羽は、空が白むまで眠れなかった。
「美羽。デートしないか」
朝食が終わって、美羽が淹れたお茶を飲みながら竜軌が誘う。
〝どこに?〟
「ファッションビル。上階のほうで、ジュエリー中心の、現代アートの展示をしている。海外の作家含め、日本の若手作家も出品しててな。日本刺繍も良いが、お前はきっとこっちのほうが、気に入るんじゃないかと思う」
気を遣ってくれているのかもしれないと美羽は思った。
竜軌は自分にだけはとても優しいから。
〝行きたい。オシャレしていい?〟
「ああ、そうしろ」
美羽はホッとした。
竜軌は新潟で刺される前、汚れるといけないから気に入った服は着るなと言った。
血で汚れる可能性を考えていたから。
その時の遣り取りは今も美羽の胸に、小さな棘となって刺さっている。
だからまだ、試すように尋ねてしまうのだ。
竜軌に手渡されたチラシには『現在進行形のジュエリー 三菱地所アルティアム』とあった。確かにモダンで面白い形のジュエリーの写真が載っている。
〝面白そう〟
「だろう?じゃあ、荷物をまとめろ」
『現在進行形のジュエリー』は、福岡県福岡市のイムズというビル内にある、三菱地所アルティアムさんで実際に行われていた展示会です。九藤の創作ではありません。




