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ことごとく
ことごとく
竜軌は浴衣を着て布団の上に転がっていた。
(どうにも扱いあぐねるな)
手元に置けば安らぐもの、と考えていた存在だが、逆に気持ちが落ち着かない。
そこが、美羽の帰蝶たる所以とも言えた。
(難しいのだ、あの女は。昔から俺を煩わせる)
美羽は竜軌より七歳年下だが、既に大人の女性の貫禄はある。
声が出なくて幸いだったようにも思う。
美羽が自分の名を呼び、空気を震わせたなら。
抑えていたものが堰を切って溢れるだろう。
溢れたら、その先は。
「…………」
二度、三度、掛布団を蹴り飛ばす。
逢えば優しくするつもりだった。
柔らかい何かでくるんで安心させ、笑わせたいと思っていた。
(だと言うのに)
この落差は何だ。
自分でも想定外の行動しかとれずに、苛立ちは募る一方だ。
「…美羽」
呟いた途端、部屋の襖が開き、竜軌はギョッとして跳ね起きた。
部屋着姿の美羽が目を丸くして立っている。
パジャマではない、と咄嗟に確認する。




