少し長い
少し長い
「りゅうきっ」
〝ありがとう〟
「どういたしまして。美羽。この遣り取り、三回目だぞ」
何回でも言いたい。
美羽は靴箱の入ったスーパー袋を手に提げる竜軌を見る。
自分で持つと言ったが、女への贈り物は男が持つものだ、と言われた。
竜軌の述べる常識に従い、彼の左手でガサガサと揺れる袋を見る美羽の目は、大人の女性と言うより、欲しかった玩具を買ってもらった女の子に近かった。
竜軌はそのことに微苦笑する思いだった。
イブにはレストランを予約しておこうと考える。
美羽が不機嫌にならないよう、素朴さと庶民感覚を残しつつ、味が確かで洒落ていて、雰囲気があるレストラン。
結構、ハードルが高いかもしれない。面倒臭い女だと思うが、それを手間と感じないのだから、我ながら惚れている。
惚れている、ゆえに気分を害することもある。
「美羽」
道を並んで歩きながら竜軌が呼びかける。
道沿いに植えられた桜の樹が美しく紅葉している。
そろそろ紅葉狩りには良い季節だ。
なあに?と上機嫌の少女が小首を傾げる。
「トカゲには優しくしなさい」
「りゅうき?」
竜軌はそれだけしか言わなかった。
だが美羽には、まるで竜軌が探検団の動向を掴んでいるような言い様に聴こえた。
まさかね、と思う。
夕日が見られるまでにはまだ時間が少し早くて、空の端が淡く紫がかっているくらいしかその前兆が窺えない。
帰宅して、竜軌といつもより長く過ごせる。
誰かに、何かのご褒美を貰った気分だ。




