表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/663

橋の上

橋の上


 深夜、久しぶりの帰宅途中、声掛けもなく投げられたビール缶を斑鳩は反射的にキャッチした。缶はよく冷えている。

 暗い水が流れる橋の上には忍びが一人。忍びが一匹。忍びでない人間が一人。

 橋に設置された明かりの下、それぞれのシルエットを従えて佇んでいる。

「大変だね、斑鳩さん。それ、陣中見舞い。五百ミリリットルで良かった?」

「ありがとうございます、剣護様」

「その呼び方、むず痒いんだけどなあ」

 剣護が頭を掻く。

「真白様の兄上様ですので。失礼しても?」

「どうぞ」

 剣護が両手で勧めると、斑鳩はプシュ、と缶を開けた。

 喉を仰け反らせてロングストレートを揺らしながら一気にビールを呷る様は、男から見ても胸がすく。

 加えて、美女だ。

 ビールを飲み干した斑鳩は、大きな息を吐いた。

「ああっ、生き返るっ!」

「疲れてるな。おまわり仕事は、美容の敵だ」

 兵庫の労いに、ルージュを引いた唇の端を上げる。

「我ながら、どうしてこの職を選んだかと今でも思う時があるわ、兵庫どの」

「くノ一に、警察と来てはな。スリル無しには退屈な美女、と言えば格好もつく」

「どうかしら。朝林は、責任能力を問われないかもしれないそうよ」

 持久力と体力には自信のある斑鳩も、ここ最近続く事件に疲労が溜まっていた。

 長く遣り取りする余力も無いと自覚している彼女は、彼らが集った理由の核心に先に触れた。

 剣護が舌打ちする。

「やっぱりか」

「山尾。あいつはどうしてるの?」

 山尾は秀比呂が精神鑑定を受けている病院に潜入している。

「変わりないよ。部屋の隅っこに鼠みたいに縮こまって、ずうーっと、きちょう、私の蝶、めいた世迷言の繰り返しさ。気が滅入るったらないね。もし信長公が耳栓開けっ放しなら、さぞやご不快、鬱憤も山積だろう」

 口には出さないが、兵庫も斑鳩も剣護も、この猫でも気が滅入るということがあるのか、と思っていた。極楽とんぼを地で生きているような山尾だ。

「おや、皆様。お静かですな」

「いや。お前、あんまり化け猫振りを発揮し過ぎるなよ。噂が立つぞ」

「それが参ったことにもう、立ってるんだよなあ、兵庫。だみ声の、太った猫の幽霊が夜な夜な病院を這い回ってるって言うのさ。事実と若干、異なるだろう」

「幽霊じゃないって?」

「太ってない」

 心外そうに主張して、二足で立つグレーの猫のお腹はふっくらと突き出している。それは枕に最適であるように、寝不足の斑鳩には魅力を伴って見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ