物言う伽羅
物言う伽羅
夜になると、派手な美貌の青年が食事を運んで来た。
蘭と呼ぶように言われたが、男性の名前にしては変わっていると美羽は思った。
〝家族で食事しないの?〟
そう尋ねると、ここはそういう家ではない、と言う返答だった。
何もかもが美羽には違和感だらけだ。
自分にかしづくような青年の態度も、家庭の匂いが微塵もない家も。
竜軌が机の上に残して行った香り袋も。
蘭にその理由を尋ねても、明確な返答は得られなかった。
味気ない夕食後、真白が部屋に来てくれた時は嬉しかった。
「慣れないでしょう、この家。変だものね」
あっさり、真白は言ってのけた。
「……本当は私、あなたにはもっと温かい家庭で過ごして欲しかった。こんなに裕福でなくて良いから」
彼女に、赤に金糸の刺繍入りの香り袋を見せると、目元を和ませた。
香り袋を手に乗せ、目を閉じて香りを嗅いでから言う。
「伽羅ね。それも相当、上質な物だわ」
〝どうして、竜軌はこれを私に?〟
竜軌、と書く時、少し迷ったが、あの男、や、あいつ、ではいけないだろうと思い、そのままの名前を書いた。やはり大層な名前だと思いながら。
「…男性が女性にそんな贈り物をする理由は一つだわ」
〝解らないわ〟
「本当に解らない?美羽さん」
〝解るから解らないわ〟
言い得て妙だと思い、真白は笑いを洩らした。
「そうね。大事なことは直接言わないとね。あなたを、この胡蝶の間に置く理由も」
〝理由って?〟
「いずれそれも、新庄先輩が語るでしょう。…多分」
語尾には若干の自信の無さが滲んでいた。
伽羅の芳しい香りは、美羽の胸に靄のようなものを生じさせた。
(あの人、一体、何がしたいの)




