老いらく
老いらく
「そうか、条件すら出さんか」
「りゅうき」
「ふん、親父の奴、お前を怖がっているな」
「りゅうき?」
「そうだ。あの泣く子も黙る新庄孝彰がだ」
「りゅうき」
「うん、愉快だな」
胡蝶の間の簾を上げ障子戸を開けた縁側で、美羽と竜軌は中秋の名月を観ていた。
お団子の作り方は解らなかったので、マチにお願いすると大層、喜ばれた。
そして月見団子を盛った白木の三方、黒備前焼の鶴首花入にすすきを活けて縁側に置いてみると、中々に雰囲気が出た。美羽も今日は竜軌とお揃いで、浴衣を着た。涼しいので藍色の羽織を肩にかけている。竜軌は浴衣一枚で平気な顔をして、美羽の膝枕でご満悦だ。
やはり美羽の黒髪にじゃれてくる。それは放っておいたり適当にあしらったりするが、お尻や胸に手が伸びると、すかさずぴしゃりと叩いてやる。
顔を睨めばにやにやと笑っている。ふざけているのだ。
月は見事に真円で明るく、薄い雲も払っていた。
虫も鳴いている。
二人して団子に手を伸ばしつつ、月を見上げる。
「晴れて良かったな、美羽」
「りゅうき」
美羽は唯一、発声出来る言葉を、疑問や相槌など様々に使い回した。メモ帳も使うが、なるべく発声に慣れようという考えもあってのことだ。
竜軌はそれを不快に感じるどころか喜んでいた。
一生、そのままでも良いぞ、などと言う。
「お前、婆さんになってもそうして座ってろよ」
つんつん、と髪を引っ張りながら言う竜軌に、美羽は微笑む。
「りゅうき」




