表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/663

何度でも

何度でも


 小さくともるオレンジの明かり。

 二人の周囲、結界のように張り巡らされた薄闇は、懐かしいと錯覚するくらい慣れ親しんでしまった。

 子供の隠れ処みたいだと美羽は思っている。

 もしくは洞窟。

 蛾がたむろするランプを持ってそこを覗けば、悠然と横たわり笑む竜が一頭。

「美羽、もう一度、呼んでくれないか」

「りゅうき」

「もう一度、呼んでくれ」

「りゅうき」

「もう一度、」

「りゅうき」

 寝床で、竜軌は際限なく美羽にねだる。

 寝物語や、子守唄を乞う幼子のように。

 美羽が口を開き、その名を呼べば幸福そうに目を細める。

 頬に手をあてがわれて撫でられ、美羽のほうが恥ずかしくなる。

「りゅうき?」

 まだ?と問いかける。

 だいぶ照れ臭いのだが。

「ああ、美羽。愛してる」

 通じていない。だが、通じているような気もする。

 美羽にはお宝のような言葉を、景気よく降らせて来る。美羽はあたふたとして、四角い銀色の宝箱にそれを入れられないことを残念と思う。

 ビー玉や七色の鉛筆を箱の隅に追い遣ってでも、いっとう、取っておきたいのに。

(…そんなに幸せそうに、喜ぶなんて)

 竜虎がうっとり喉を鳴らすようだ。

 もっと早く声を出せていれば、と悔やまれる。

 とても惜しいことをした。

 こんな笑顔をまだ隠していたとは。

「りゅうき、りゅうき」

 笑顔を見たくて声を出すのだが、呼べば呼ぶほど、強い力で抱きすくめられて顔が見られない。竜軌の匂いに圧迫されて息苦しい。

 浴衣から微かに香る、煙草の匂いと蠱惑的な甘さ。

 泣く子をあやすような金木犀の香りとは異種族だ。

 竜軌は煙草を吸うが、美羽といる時は必ず美羽から距離を置いた場所で紫煙を吹かす。

「離れるなよ、美羽。お前を幸せにしてやる」

 竜軌は、頭が良いのか悪いのか判らない。

(頭が良くても莫迦だわ、竜軌)

 竜の匂いを吸い込む。

 離れられる筈がない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ