何度でも
何度でも
小さくともるオレンジの明かり。
二人の周囲、結界のように張り巡らされた薄闇は、懐かしいと錯覚するくらい慣れ親しんでしまった。
子供の隠れ処みたいだと美羽は思っている。
もしくは洞窟。
蛾がたむろするランプを持ってそこを覗けば、悠然と横たわり笑む竜が一頭。
「美羽、もう一度、呼んでくれないか」
「りゅうき」
「もう一度、呼んでくれ」
「りゅうき」
「もう一度、」
「りゅうき」
寝床で、竜軌は際限なく美羽にねだる。
寝物語や、子守唄を乞う幼子のように。
美羽が口を開き、その名を呼べば幸福そうに目を細める。
頬に手をあてがわれて撫でられ、美羽のほうが恥ずかしくなる。
「りゅうき?」
まだ?と問いかける。
だいぶ照れ臭いのだが。
「ああ、美羽。愛してる」
通じていない。だが、通じているような気もする。
美羽にはお宝のような言葉を、景気よく降らせて来る。美羽はあたふたとして、四角い銀色の宝箱にそれを入れられないことを残念と思う。
ビー玉や七色の鉛筆を箱の隅に追い遣ってでも、いっとう、取っておきたいのに。
(…そんなに幸せそうに、喜ぶなんて)
竜虎がうっとり喉を鳴らすようだ。
もっと早く声を出せていれば、と悔やまれる。
とても惜しいことをした。
こんな笑顔をまだ隠していたとは。
「りゅうき、りゅうき」
笑顔を見たくて声を出すのだが、呼べば呼ぶほど、強い力で抱きすくめられて顔が見られない。竜軌の匂いに圧迫されて息苦しい。
浴衣から微かに香る、煙草の匂いと蠱惑的な甘さ。
泣く子をあやすような金木犀の香りとは異種族だ。
竜軌は煙草を吸うが、美羽といる時は必ず美羽から距離を置いた場所で紫煙を吹かす。
「離れるなよ、美羽。お前を幸せにしてやる」
竜軌は、頭が良いのか悪いのか判らない。
(頭が良くても莫迦だわ、竜軌)
竜の匂いを吸い込む。
離れられる筈がない。




