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美酒

美酒


〝竜軌、今日、機嫌が良いわね〟

「そうだな」

〝最近、カリカリしてた〟

「そうか?そうでもないぞ」

 嘯き、夕食に箸をつける。

 胡蝶の間で、美羽と一緒に夕食をとる。

 竜軌の心持ちの軽やかなことが、これだけでも明らかだった。

 ペンと箸を交互に握りながら、それでも美羽は竜軌との夕餉を喜んでいる。

(その内、美羽の作る夕飯も食べてみたいもんだ)

 竜軌も和やかな顔で季節の旬を味わいながらそう思っていると、美羽の頬がぽうと染まっている。

「美羽?」

〝何?〟

「…顔が赤い」

〝やだ、竜軌のH。この、女ったらし。いよっ、女泣かせ〟

 内容は事実に反していないが、発言に整合性が無い。こうした症状を呈する、特有の病を竜軌は知っている。

「―――――――お前、飲んだか?」

〝竜軌、大好きー。今度、浮気したら、離婚するんだからね!〟

 竜軌の問いに答えない上、まだ結婚もしない内から離婚予告をしてくる。

 よたっとした文字を見せた美羽は、くすくすと笑い出す。いつまで経っても、笑いが止まらない様子だ。答えているも同然ではある。

(この酒量で酔い心地か。幸せな女だ)

 竜軌にはごく自然なことなので気にも留めなかったが、テーブルには食前酒の入った華奢なグラスが置いてある。何の因果か紅の玻璃、つまりは赤いガラスだ。秋という季節に合わせたのだろう。繊細な切子細工が美しい。美羽のグラスは、竜軌の物と同じく既に空だ。自分が飲んだ時、気付くべきだった。

 竜軌は箸置き替わりに膳に載っていた楓の葉のついた小枝を手に取り、くるくる回した。葉は真紅に染まり切っている。選び抜いたのだろう。

 普段、優秀な料理長は未成年の美羽には酒を出さないよう心がけている。竜軌と美羽が夕食と共にすることは稀なので、ちょっとした手違いが起きたのだろう。給仕をした蘭も気付かなかったようだ。

〝大好きー〟

 美羽は笑いながらその文字を繰り返す。楽しくて仕方ないらしい。

「…はいはい。美羽、早く食べ終わりなさい。酔いが醒めたら行くところがあるからな」

〝お散歩ー?〟

「そうだ」

〝大好きー〟

「はいはい」



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