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大人

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 美羽は視力が良い。

 そして彼女の目は、自動販売機の近くにキラリと光った物を見逃さなかった。

 撮影に集中する竜軌を放って光源に走り寄る。

 間違いない。この色、このサイズ。

 五百円玉だ。十円玉や五十円玉、百円玉ではない。

 五百円玉硬貨が落ちている。日光を受けて輝いている。

 何て大きな拾い物だろう。

(ラッキー!今日はついてるわっ)

 拾うべくさっと手を出した美羽の手に、ぶつかる手があった。ごつい銀の指輪がその中指に見える。髑髏マークが刻印されていて、悪趣味、と美羽は思う。

 私の狩りを遮ったのはどこのどいつだ、と力を籠めた視線を上げると、竜の刺繍の躍るジャンパーを羽織った、金髪の若者と目が合う。

 肌が荒れている。栄養状態が悪いのだろうか。

 だからと言ってこの獲物は譲れない。

 二人はサバンナでバッファローの死骸を前に出くわした、ハイエナ同士のように睨み合った。

「手を上げろ」

 若者のドスを利かせた声に、美羽が大きくかぶりを振る。

(どこの強盗犯よ、あんた)

「お嬢ちゃん、こいつは俺のもんだ。こいつも、俺の財布に飛び込みたがってる。な?声が聴こえるだろ?」

 美羽はまた、大きくかぶりを振った。

(寝言抜かすな!この子が飛びたがってるのは、私のお財布よ、チンピラ!)

 そこでふと、若者が目付きを緩める。

「…もしかしてあんた、喋れねえのか」

 だから何だと言わんばかりに、美羽は顎を逸らす。

 五百円玉硬化から手が離せない為、文字を書くことも出来ない。

「そうか。…そうなのか。……困ったな。弱った女子供には優しくしろと、俺は母ちゃんに言われてんだ。こんな俺でも一つくらい良いとこ持たねえと嫁さんが来ないだろって、寝込んでる癖に余計な心配しやがってさ」

 そう言って鼻をすすった、人情味のある若者の台詞に、美羽もほだされた。

(…あなたのお母さんも、亡くなったの)

 自動販売機の前に屈み込んだ二人の間に、しみじみとした空気が流れた。

「なあ、お嬢ちゃん。ここは大人の取引といこうじゃないか」

 何?と美羽は視線で尋ねる。

「互いに小銭を持ってるほうがこれを拾って、相手に二百五十円を渡す。山分けってことだ。どうだ?」

 仕方あるまい、と美羽は思う。

 大きな、ピカピカした硬貨を、丸ごとゲット出来ないのは無念だが。

 美羽は大人の取引に乗ることにした。



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