表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/663

お説教その四

お説教その四


 浴衣を着て、胡蝶の間を訪れて胡坐をかいた竜軌を、美羽は正座して上目遣いで見上げた。

 いつもであれば帰宅してすぐ、自分の部屋に戻る前に胡蝶の間に足を運んでくれる竜軌が、今日は夕飯のあとになるまで来なかった。

 床下探検を知って、怒っているのだ。

「お前は莫迦か」

 案の定、呆れた声で言われる。

 それから、頭を両手で挟まれた。

「寂しかったのか。美羽」

 低い声で穏やかに尋ねられ、美羽の目からじわ、と浮かぶものがある。

 そうかと言って、竜軌は美羽の身体を抱き寄せた。

「楽しかったか?」

 尋ねられてコクコク、と頷く。

「そうか。……まあ良い。今後は、するな。親父だったからまだ良かったものの、母だったら卒倒してるぞ」

 それは確かに、と美羽も文子と遭遇した場合のことを思い描いて納得する。

 そして卒倒から目覚めた彼女に、何かよっぽどの事情がおありだったのね?などと言われそうだ。

〝竜軌。あまり怒ってない?〟

 ふう、と竜軌は息を吐く。

「どちらかと言えば、呆れてるよ。お前は変わらんと思ってな」

〝きちょう?〟

「ああ。侍女では物足りなかったんだろう。蘭や坊丸や力丸を引き従えて、城の上から下まで動き回って。俺に命じられた仕事をしている最中の蘭まで駆り出したのを、怒ったこともある。そしてそれに飽き足らず伽藍にまで足を伸ばす。本丸御殿は退屈だとか抜かしおって」

 笑みを浮かべて遠い目をして話す竜軌を見ると、美羽は複雑な気分になる。

 昔の自分に妬くという、奇妙な体験を彼女はしていた。

〝侍女?お城に住んでたの?〟

「侍女は物の例えだ。お前の身の周りの世話をしてくれてた、近所のおばさんだ。城とか言ったのも、それくらい広い家という意味だ」

〝がらんって何?〟

「寺院の建築物のことだ。七堂伽藍は金堂やら講堂やら、寺の基本的な建物を指す。堂塔伽藍と言えば、寺の建物、全部引っくるめた物と考えれば良い」

〝私、お寺が好きだったの?〟

「いや、お前はそこまでは信心深くなかった。暇潰しだったんだろう。美羽、明日は撮影について来い」

 美羽はパッと顔を輝かせた。

〝いいの!?〟

「ああ。床下よりにいられるよりはマシだ」

〝でもせっかく私、かっこいいコードネームを持ってたのに〟

「ろくなことを考えんな…」

〝私ね、竜軌。マダム・バタフライよ。クールでしょ〟

「シュールだ。お前、蝶々夫人のあらすじ、知らんだろう」

〝知ってるわよ。私はピンカートンみたいな男は選ばなかったつもりだけど?〟

 違いない、と竜軌は笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ