お説教その一
お説教その一
真白は、寝室のベッドの上で、荒太の前に小さくなって正座していた。
「バレちゃったの」と言う妻の告白を聴いた荒太はゆるゆると床に座り込み、頭を抱えた。
それから、ちょっとここに座って、とベッドを指し示し、自分も彼女の差向いに正座した。おっとり、天然の気がある妻は、たまに思いも寄らないことを仕出かしてくれる。
「…それで最近、疲れて、早く眠り込んでたの?」
アンティークの、金の置き時計の音がコチコチと響く。
艶めいた紫紺の夜の、夫婦の会話のテーマが「床下」で良いのか、と荒太は思う。
「……うん」
「俺の誘いにも応じてくれず」
「……ごめんなさい」
「真白さんは、俺より床下が好きなんだ。美羽さんや、長隆どのたちのほうが好きなんだ。床下と結婚すれば良かったねっ、俺、床下じゃなくてごめんねっ」
「そんなことない、荒太君のこと好きよ、床下よりも大好きよ!誓うわっ!!」
ふん、と鼻息荒く横を向いた夫に必死で叫ぶ。
「………」
「愛してるし、あなたと結婚して幸せだと思ってるっ」
「…うん」
「それにね、私、ホワイト・レディになったの」
「―――うん?」
「コードネームよ」
ホワイト・レディはカクテルの名前だ。
お洒落でしょうと無邪気に笑う真白の顔を見て、懲りてない、と荒太は思う。
「真白さん。好い大人のすることじゃないよ?解ってる?一歩間違えれば犯罪なんだから。新庄氏が血の気の多い大人だったら、通報されてたかもしれないんだよ?」
「…はい」
「じゃあ、ホワイト・レディ。今夜は妻としての任務を果たしてください」
夫より下った指令に、真白は首を縦に振る他無かった。
「あのね、荒太君」
今にも上から塞ごうとしていた唇が動く。
こちらは早く欲しいと言うのに。
「――――――何?」
「うちでモグラを飼ったりは、」
「しない」




