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土竜

土竜


 床下から外に這い出た美羽は、外界の眩しさに目を細め、次いで縁側に立つ孝彰と目が合った。

 双方、言葉が無い。美羽は声が出ないのが常だが、出たとしても、現状では言葉を失っていただろう。

 孝彰は世にも不可解な生き物を見る目で、美羽を見た。

 温厚な顔立ちのついた頭が、きっちり斜め四十五度くらいに傾いて片側が影になっている。

 長い政治家生活の中でもリアクションに困るということが滅多にない孝彰だが、今はその滅多にない状況だった。

「美羽様、さっきのモグラ、可愛かったですねえ。こう意外に毛が、ふわふわで」

「でも飼うのはいけませんよ、反対ですからね。モグラは大喰らいなんですよ、あれで」

 口々にそう言いながら、美羽のあとに続いて床下から這い出て来た兄弟も、孝彰の姿を見て固まった。更にその後ろから、真白が出て来る。彼女もまた、びっくりした表情で、慌てて起き上がった。

「…お邪魔しております」

 汚れを払うようにバタバタしたあと、蚊の鳴くような声で挨拶する。

 孝彰のたまの憩いのひと時に、床下からわらわらと、若者たちが湧いて出た。

 先達たる大人として、これにどう対応すべきか。

 彼は咳払いした。

 自分の当惑を誤魔化しつつ気持ちを落ち着かせる為に、とりあえず大人がやる手法である。

「……真白さん。どうやら私は、楽しい遊びの邪魔をしてしまったようだね」

「いえ、あの、とんでもない、」

 真白が赤面して口籠る。

「土竜が、いたのかね。うちの床下に」

「はい。まだ子供のようで、小さくて」

 兄に倣って直立不動した力丸は、汚れのついた顔のままハキハキと答えた。

「そうか。土竜が」

「はい!爪は大きかったです」

「…そうか」

「はい!」

 若者は元気だな、と孝彰は思う。

 微笑ましさと疲労を感じながら。羨ましくもあるが、とてもついて行けない。

 孝彰は告げ口のような真似は好まない。しかし、美羽たちが床下を今と同じように這い続けることは、より好ましくないことだと考えるのが彼という人間だった。



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