悪童たち
悪童たち
そして美羽は悪い遊びを覚えた。
やみつきになった。
坊丸、力丸を従えて、新庄邸の床下を探検するのである。
本格的な日本家屋構造の邸の床下は、少年少女らが這い回るのに格好な場所だった。
忍術の基本、床下隠れの術など、美羽は知らない。
忍びの本家本元である荒太が見れば何を好き好んで、と眉をしかめるような行為に嬉々として飛びついたのだ。
季節が秋に移り変わったころから、再び撮影に出かけるようになった竜軌は美羽を置いて行くこともしばしばだった。真白らも帰ってしまった邸内で、美羽は靴屋に行かない日は竜軌の帰りを待ち侘びて、坊丸らに相手をしてもらっていた。
きっかけは力丸の一言だった。
「そんなにお暇なら、お邸探検でもされたらいかがですか?ここ、莫迦みたいに広いし」
かりんとうを齧りながら、冗談のつもりで笑って言った弟の頭に、坊丸が拳骨を喰らわせる。
特に美羽が相手では冗談が冗談で済まされない時があることを、坊丸は力丸よりも知っていたのだ。
彼の危惧は現実のものとなった。
美羽はその翌日、ゆったりしたシャツにズボンという動きやすく、汚れても構わない格好に着替え、彼ら兄弟にのたまった。
〝行くわよ!〟
「…どこにですか」
〝床下!〟
美羽には餓鬼大将の資質があった。
無論、これら悪童の動きを、常識人且つ善良な大人である蘭やマチは知らない。
彼らの目を巧妙に盗み、美羽は蜘蛛の巣にかかったり、百足や鼠との遭遇を、ドキドキワクワクしながら楽しんだ。床下において神器・清流や雨煙が呼び出されることも、まま、あった。これらの行動を率先したのは美羽だったが、力丸はこれを純粋に面白がっていたし、坊丸も年長者として時にストッパーとなりながら、目新しい遊びに全く楽しみを見出していない訳ではなかった。
「美羽様、カステラをかっぱらって来ましたよっ」
力丸がにかっと笑って差し出す戦利品を、三人で頬を緩めて共犯者の笑みを交わし合いながら薄暗い床下で食べたりもした。
クリスタルで作られたシャンデリアの下で食べる料理よりもずっと美味しかった。




