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サロン

サロン


 真白の大学の都合の良い日を選び、美羽と文子と真白は連れ立って、美術館に日本刺繍の展示会を観に行った。

 見に行く前にはまた、文子が美羽と真白の着物を嬉々として誂えた。

 げんなりとする美羽に、展示会では客層も恐らく和服の夫人で占められるだろうから、文子が張り切るのも無理はないのだ、と真白が取り成した。

 美羽は極めて淡い浅葱色に、白い大きな蝶の柄が浮く訪問着を着た。黒に白いシャープな線と紅が菱形のように入ったモダンな帯に明るい橙の帯締めをしている。

 真白は赤い、大輪の菊が艶やかな訪問着を纏った。ピンクがかった銀の帯に帯締めは真紅だ。

 やっぱり若い人は良いわねと言いながら文子が着るのは、渋い赤紫の地に薄く網目文様が浮き出て、金と赤の糸で紅葉があちこちに刺繍された訪問着である。帯は白っぽい水色に、淡いピンクの花模様。中心を走る、濃い紫の色が効果的だ。


 真白の言った通り、展示会場は和服の、主に年配の婦人客が多かった。

 受付に座る女性からして、和服だ。

 美羽は彼女の締める帯の、細やかな刺繍に驚いた。

 しかし会場内に入れば、それが普通なのだと思い知らされた。

 そもそも日本刺繍などに興味を持つのは、文子のように、日頃から着物を嗜む人たちだろう。そして彼女たちが展示会に足を運ぶとなれば、凝った刺繍の施された物を身に着けていて当然なのである。

 それで真白の帯や美羽の帯のお太鼓の部分には、優美な刺繍があるのだ。

 心得のある文子の采配なのだった。

 上流階級のご婦人たちのサロンのような意味合いもあるのだろう、文子が一歩、会場内に足を踏み入れるとあちこちの女性から声がかかり、美羽と真白はしばらく放っておかれた。

 日本刺繍の題材には、美羽の知らないもの、読めないものも多かった。

〝真白さん。あれ、何?薬玉って書いてあるけど〟

「ああ、薬玉」

〝あの、パンパカパーンって割るやつ?そうは見えないけど〟

「昔ね、五月五日、つまり端午の節句に、邪気払いとして色んな香料を玉の中に入れて、それを華やかに飾り付けたの。…確か、男性が、好きな女性に贈ったりするんじゃなかったかしら」

〝へえ、ステキ。真白さん、物知り。さすが大学生だわ〟

 美羽が素直に称賛の眼差しで見つめると、真白は照れた表情をした。

〝あれは?〟

「貝桶。貝合わせってあるでしょう?その貝を保管していた箱。とても高価で綺麗な装飾がされて、昔は上流階級の女性のお嫁入り道具だったんですって」

「あら、昔ではないわ。わたくしは貝桶を持参して、新庄に嫁ぎましたよ?わたくしのお嫁入り道具、今度、二人にも見せて差し上げるわね。専用のお部屋に置いてあるの」

 いつの間にか横に立っていた文子がさらりとそう言うのを聴き、美羽も真白も、さすが文子さんだわ、と思った。



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