表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/663

モラトリアム

モラトリアム


 シルクの傘の乗った、電気スタンドのオレンジの明かりだけがまだついている。

 晩夏から初秋に差し掛かろうとする時分、虫たちが清かにすだく。

「…胸に、触って良いか?」

 麻のパジャマの薄い生地では、防げないものがある。

 だが美羽は思い切って頷いた。

 それくらいの譲歩はしなければと考えた。

 大きな手が膨らみに届く。女性の胸に触ると言うよりは、お地蔵様の頭に手を添えるような仕草だ。

「鼓動が速い。怖いか。恥ずかしいか」

 美羽はかぶりを振り、次に頷いた。

 膨らみの上から唇を押し当てられ、思わず竜軌の頬を張る。

 パン、と乾いた音が一つ。

「…おい」

 何だこの仕打ちは、と言われる前に、急いでその唇を塞ぐ。

 結果的に、竜軌を布団に押し倒した形になった。

 頬にも、唇をつける。とにかく、取り繕わなければと焦っていた。

「――――なあ、美羽。抱いてはならんのだよな?」

 コクコクと頷く。黒髪が動きに合わせて大きくうねる。

 だよなあとのんびりした声が響き、くる、と視界が回ったと思えば、互いの身体の上下が逆転していた。

「俺はされるばかりなのは好きじゃない」

 黒い瞳が上から言う。

 くちづけて、蝶の胸に顔を埋めて。

 その先へ行くのだろうかと美羽は怖気づいた。

 だが竜軌はそれから、以前と同じように美羽の身体を緩く寄せただけだった。

「長い猶予は与えんぞ」

 チュ、と前髪の生え際にキスされる。

 竜軌は右手を伸ばして電気スタンドの紐をカチリと引っ張った。

「お休み、美羽」

 だから美羽はこの竜が大好きなのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ