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円満具足
円満具足
その夜。
荒太もまた宿の一室で、妻に求愛していた。
「真白さん。俺、タイムアップ」
浴衣は女性の色香を割り増しさせるアイテムだと思う。
ただでさえ、相手は最愛の人だ。
逃がさないようにしっかりと、真白を胸に抱え込む。変わらない華奢な感触に陶酔する。
「荒太君、苦しい。……帰るまで、」
「待てません。もう引き返せない、引き返せない」
柔らかい身体を、柔らかく布団に押し倒す。
白皙の頬が桜色に染まっている。待てる筈がない。
「新庄先輩に聴かれるのは、嫌なんだけど」
「地球の裏側に行ったって、あいつが聴く時は聴くんだから。羨ましがらせれば良いさ」
夫の手が心地好くて、委ねてしまいたくなる。
荒太と離れていた期間は、やはり真白も寂しく、心細かった。
「荒太君」
くちづけを受けながら、夫を呼ぶ。
「何?」
「…」
「愛してるって言いたい?」
「そう」
「うん。俺も愛してる」
「電気を、消してくれる?」
「もちろん、間接照明だけで」
「全部」
「………」




