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そんな気がした

そんな気がした


 入院患者である竜軌にも美羽は容赦しなかった。

 往復ビンタを喰らわせ、頭を拳でどつきまくった。

 その間、蘭は美羽に取り縋り、「御方様、お慈悲を、お慈悲をっ!」と、美羽が無体な悪代官ででもあるかのように叫んでいた。

 美羽はそんな蘭のみぞおちにも拳をお見舞いした。

 そうして、蝶は、まだ鼻息が荒いながらも、やっと肘掛け椅子に座るまでに落ち着きを取り戻した。

 贅を尽くした個室内の人間は全員、抱く感情を異にすれど、疲労している点では一致していた。

 怒りのエネルギーで最も早く復活した美羽が、メモ帳を竜軌に突きつける。

〝ドスケベ、このエロエロ野郎、女ったらし、浮気者、地獄に落ちろ〟

 文字は活き活きとメモ帳の上で躍っていた。

 聴こえない筈の声が聴こえる錯覚に陥るような、罵詈雑言だった。

「…すまなかった」

〝ごめんなさいは?〟

「ごめんなさい」

〝許せないわ。別れる〟

「ごめんなさい。別れないでくれ、美羽」

〝私が、たくさんたくさん、悩んでる間に、あなたって人は。呆れて言葉が出ないわ〟

 出ているじゃないか、と竜軌は心の隅でのみ、突っ込む。

「だから、悪かった」

〝別れる。別れる。別れるわよ、絶対。もう、決めたから〟

 そこまで書かれて、竜軌の頭の中でも、ぷつりと切れる音がした。

「――――――人が下手に出れば付け上がりおって。元はと言えばお前がおらんのが悪いんだろうがっ」

 美羽が、はあ!?と言う顔をして椅子から立ち上がる。ガタン、と大きく椅子が鳴った。

 またも近付く嵐の予兆に蘭がああ、と顔を覆う。

「見舞いの一つにも来やがらん癖に!お前がいなければ、他の女で代用するしかあるまい。して何が悪い?俺は悪くない!!」

「上様、上様!」

 今にも竜軌に掴みかかろうとする美羽を後ろから羽交い絞めにして、逆切れした主君を、蘭が窘める。美羽は蘭を振り解き、ペンを握る。彼女が文字を綴るスピードは、この一時間の内にこれまでにも勝り急速に向上していた。

〝何、開き直ってんのよ!あんたバカ?〟

「誰が莫迦だ。お前がいなければ浮気して当然だろうが、そう言っといた筈だぞ!?」

〝当然じゃないし、聴いてないわよ〟

 枕から頭を浮かしていた竜軌の勢いが止まる。

「…言ってなかったっけ?」

 美羽が竜軌を睨みつけながら頷く。

「あれ。…そうだったか?」

 再び、部屋に静寂が満ちる。



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